1年前の3月29日、志村けんさんが亡くなった。70歳だった。

一周忌を前に志村さんに献杯に行ってきた。志村さんが、こよなく愛した麻布十番にある「よし喜」という和食屋だ。

近くのマンションに部屋を持っていた志村さんの姿は、麻布十番で、よく目撃することができた。飲み屋、喫茶店…六本木の街中だったら酔客に「あっ、志村けんだ!」と指さされるところだが、麻布十番界隈では、そっと黙礼されるくらいだ。“志村けんがいる風景”が街に溶け込んでいた。

ヘビースモーカーで酒好きで知られた志村さんだが、家庭料理をカウンターの大皿から選ぶ「よし喜」では、体のことを考えて野菜を中心に食べたという。中でも一番好きなのは、大ぶりな空豆だったという。

空豆の食べ方は焼いて食べることが多いが「よし喜」ではゆでている。志村さんは、焼いて食べたものが好きで、ママさんは志村さんのために手間暇かけて焼いた。その焼き上がった空豆を食べながら、おいしそうに焼酎のお湯割りを飲んでいた。

記者も3回ほど、酒を飲む志村さんと遭遇した。3年ほど前には、病気で髪の毛を失った子供に寄付するヘアドネーションのために、髪を40センチくらいまで伸ばした。ロン毛を頭の後で結びいわゆる“志村ヘア”にしていた。友人と待ち合わせて店内に入ると、入り口脇のテーブルに志村さんがいた。

志村さんがいるところへ、志村ヘアの登場で、店内は一瞬、変な緊張感に包まれた。志村さんは、記者の頭を指さしてニヤリと笑った。

おネエちゃんと一緒でも、仕事関係者と一緒でも、気安く声をかけないのが麻布十番でのルール。楽しそうにお酒を飲む志村さんに会釈して、記者も友人と合流した。

志村さんが「よし喜」に最後に訪れたのは、昨年の3月10日。最後のテレビ出演となったテレビ朝日系「あいつ今何してる?」の収録後に仲間と訪れて、笑いながら杯を重ねていたという。

志村さんといえば、当然のごとく、出身地の東村山。「東村山音頭」という大ヒット曲もある。だが、麻布十番の街の人たちにとっても“地元のスター”だった。そんなことを考えた一周忌だった。