シンガー・ソングライター平井堅(49)が、デビュー25周年のラストデーとなる12日に、約5年ぶりのオリジナルアルバム「あなたになりたかった」を発売する。25周年をへて、来年1月には50歳と節目を迎える唯一無二のシンガーは、変わりゆく音楽業界の中で常に自分と向き合い、美声を響かせてきた。このほど日刊スポーツの独占インタビューに応じ、胸の内を語った。【聞き手=大友陽平】

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昨年5月にデビュー25周年を迎えた。そのラストデーに発売する新アルバムのタイトルは「あなたになりたかった」。コロナ禍で日課となっていた散歩の途中に思い浮かんだという。

「どうしても内省的になって『自分ってどういう人間なんだろう?』と考えることが多くて、常に誰かをうらやんで、ねたんでいる人生だなと。それはある特定の誰かの時もあるし、自分以外の他者全員の時もある。この仕事って、個性を打ち出しつつ、実際やることは自分を消すことも多くて、それを漠然と言い表す言葉だなと思って、今回のタイトルにしました」

「ノンフィクション」をはじめとするシングル表題曲をはじめ、新曲5曲も織り交ぜた。

「『1995』は、その時代を象徴する女の子たちという感じです。『オーソドックス』は、『悪人』(10年公開)という吉田修一さん原作の映画がすごく好きで、深津絵里さん演じるヒロインが、ずっと国道を走ってる人で、そこから出られない人生に閉塞感を感じている女性だったんですけど、なんかすごく彼女の姿が残っていて。僕も三重の国道沿いに住んでいて、田舎で国道はすごく大事なものなんですけど、何物でもない地方都市に住む女性の曲はずっと書きたいなと思っていました。『鬼になりました』は、歌の主人公が輪郭、存在感を見せる曲を書きたいと思っていて、それを目指して作りました」

ほか「ポリエステルの女」「おやすみなさい」も含めて、平井堅ワールド全開だ。

「自分とは全然違うどこかの誰かのことなんだけど、気持ちは自分っぽいというか…。同じような悩みを抱えている女性だったり、どこかで暮らしている男性みたいなのを想像して、妄想して作った物語5つという感じです。どこか地球の片隅で生きている人、そういう人を捉えて、見つめて、歌にできる、それを歌っていい歌手になりたいなと思って書きました」

「サブスクの時代」と言われるなど、音楽業界も様変わりしている。その中で、あえてアルバムという1つの作品を作り上げた。ジャケット写真も、顔が消えているものを選んだ。

「曲単体で聞かれる時代に、アルバムという枠って必要なのかな? と今も思ってますが、だからこそこのアルバムが出来たとも思ってます。自分の顔を消したのも、きれいにきれいに撮る今の時代のアンチテーゼでもある。タイトルもジャケットも、キラキラしたシングルだけでは済まされない、自分の表現欲みたいなものが伝わったらいいなと思います」

95年5月13日にシングル「Precious Junk」でデビューし、まもなく26年になる。

「大先輩がうじゃうじゃいるので、25年ぐらいでふんぞり返ることはできないですが…。自分自身、その時々で後悔もあるけども、一生懸命やってきて、それが今の自分作ってるし、よく頑張ってきたのかな…。気が小さいし、心も弱くて、すぐヘナヘナってなっちゃうんですけど、今回のアルバムもそうですが、まだまだ反骨心というか、ぎゃふんと言わせてやるぞ! みたいな気持ちが、原動力になっています」

来年1月には、50歳という節目も迎える。

「歌手もある意味体力勝負で、アスリートみたいなものだと思っています。しかも代表曲って若い時に生まれるもので、その曲を50、60歳になっても歌う仕事って、実は酷で…。俳優でいえば、50歳になっても、18歳の時のお下げでセーラー服を毎回やらなきゃいけない仕事って、ちょっと“変態”だと思うのですが、“いい変態”になれるように…。その時その時でちゃんと自分と話し合って、僕自身が“平井堅”という歌手を認められる間は、歌い続けたいと思います」

◆「あなたになりたかった」 前作「THE STILL LIFE」から約5年ぶりで、平井にとって10枚目のオリジナルアルバム。TBS系ドラマ「小さな巨人」主題歌の「ノンフィクション」、あいみょんとのコラボ配信曲「怪物さん」などシングル表題曲8曲をはじめ、「1995」など書きおろしの新曲5曲を含めた全13曲。12日にはミュージックビデオ集も発売する。