大阪に実在した熱血教師と同僚、教え子達の実話を映画化した「かば」(川本貴弘監督)初日舞台あいさつが24日、東京・新宿K'sシネマで行われた。

「かば」は、1985年(昭60)に大阪・西成区北部の公立中学校・鶴見橋中で教師を務め、2010年(平22)5月に58歳で亡くなった中学教師・蒲益男(かば・ますお)さんと生徒の実話を描いた。蒲さんは出自や偏見、校内暴力など、問題を抱える生徒とその家族に、真正面からぶつかり、どこにでもいる普通の教師ながら、葬儀に教え子だけでなく世代や職業を問わず300人を超える人々が参列したという。

川本貴弘監督は、蒲さんのことを14年に知り、教師としての原点である西成区の中学校に行き、80年代をともに過ごした同僚教師と卒業生らを2年半、取材した。「先生には会ったことはないんです。全部、実話で、せりふ1つ、1つも僕の想像ではなく、当時の先生方、生徒さんから聞いた話を入れています。先生が当時、西成で働いた先生方の情熱、子どもたちと向き合う優しさにほれ、熱さで映画にしたかった」と製作の経緯を語った。

17年にパイロット版を作って映画製作への理解を訴え続けた結果、2万人超の人々から完成を望む声が寄せられ、企画から7年で完成、劇場公開にこぎ着けた。製作総指揮、プロデュース、原作、脚本、監督を務めるが、製作資金はクラウドファンディング含め、あらゆる限りを尽くして集めた。「7年…完全自主製作で行っていますので。(取材した)同僚の先生の退職金も出させた。『先生、退職金を出さないと映画はなしよ』と言った」と振り返った。

中学生役の40人には、7カ月ものリハーサルを課した。松山歩夢(22)は、野球に取り組む番長繁を演じたが「僕はバスケ部なので、野球はしてないです。監督から『野球、ちゃんとできないと(役は)交代だ』と言われ、練習した。(劇中で演じた)たこ焼きも、やったことないんで練習した。(リハの7カ月は)必死なので長く感じない。映画の公開は決まってなかったけど、みんなでやるんだと頑張っていた」と振り返った。

川本監督は「この映画はDVD、ブルーレイには当分、いたしませんし、ネット配信もする気は今のところない。劇場や、劇場のないところにも持って、10年くらいかけて回ろうと思います」と覚悟を語った。