昨年11月12日に88歳で亡くなった歌舞伎俳優坂田藤十郎さんを「偲ぶ会」が28日、都内ホテルで行われた。

妻扇千景(88)は、何度も涙をぬぐいながら「芝居のことしか分からない人でしたが、皆さんに愛されました。芝居好きな、芝居の人生でした。その点に関しては悔いはないと思います」と藤十郎さんをしのんだ。

祭壇には遺骨も置かれていた。扇は「ずっと、この遺骨がうちにありまして。この人がいるから朝から晩まで出られないんです。遺骨でもいいからいてくれればいいんですが、明日、納骨するので覚悟を決めないと」と涙した。

長男中村鴈治郎(62)は「1年近くたっていますが、父がいなくなったとあらためて感じています」とさみしそうに話し、藤十郎さんの代表作「曽根崎心中」のお初役の思い出を語りながら、目を潤ませた。

次男中村扇雀(60)は「ありとあらゆる思いを引き継いで、歌舞伎の素晴らしさを伝えたい」とした。藤十郎さんは05年に上方の大名跡「坂田藤十郎」を231年ぶりに復活させ、4代目を襲名した。扇雀は「継承していくのは責務。私たちの家でその名前を守っていくのは宿命のようなものだと思います」と語った。

会場入り口には、14年歌舞伎座で上演した「曽根崎心中」のポスターにもなった篠山紀信氏撮影のお初の大きなパネルが飾られた。ほかにも、舞台写真47点、プライベート写真20点、藤十郎襲名時のスチール写真が展示され、藤十郎さんの軌跡を伝えた。

遺影には09年に文化勲章を受章した際の記念写真が選ばれ、祭壇はカーネーション、バラ、胡蝶蘭(こちょうらん)など5000本の花で彩られた。戒名は妙藝院殿藤久日宏大居士(みょうげいいんでんとうきゅうにちこうだいこじ)。