吉永小百合(77)が17日、長崎県五島市の福江文化会館大ホールで主演映画「いのちの停車場」(成島出監督)特別上映会を開いた。

五島列島には、2004年(平16)に福江中央シネマが閉館してから18年、映画館がなく、島に自生する椿を核にした新たな地域活性に取り組む「五島の椿プロジェクト」が企画。20年2月に発足した同プロジェクトの趣意に賛同し、椿サポーターを務める吉永が、主演映画を携えて来島。島民を招待して映画を“プレゼント”した。

2度の舞台あいさつには、1500人が集まり、吉永は「コロナが本当に大変な時期にスタッフ、キャストの心を1つに合わせて作りました。今までの作品とはまた違った思いがある作品を五島の皆様に見ていただけて、とても幸せなことです」と感激した。

福江中央シネマ閉館後の18年間で、この日と同じ福江文化会館大ホールで上映された映画は3本。1本は、吉永の提案により五島でロケが行われた19年「最高の人生の見つけ方」を同年12月に、今年1月に五島市出身でアニメーション映画・美術家の山本二三氏が背景を手がけた「もののけ姫」と「千と千尋の神隠し」の鑑賞会を行ったのみ。五島に縁がない、商業映画を上映したケースは福江中央シネマの閉館後、ない。映画館が18年、なかった五島からは、映画を映画館で見るという文化自体が失われてしまい「映画はDVDで見るもの」「映画は飛行機(または船)に乗って見に行くもの」という考え方が当たり前になっているという。

吉永は11年に「私の友人から素晴らしいところがあるからとお誘いがあり」初めて五島列島の福江島と久賀島に訪れた。「とても素晴らしい場所で、特にお魚がおいしいんですよね。ホテルの近くの魚屋さんで尾頭付きのタイが200円で売っていたのはびっくりしました」と振り返った。

「本当に人間が住んでいく上でのオリジナルなところ、原点という感じが致しました」と感銘を受け、翌12年も訪問。「上五島まで行ってみようと思い、頭ケ島まで行きました。いろいろなところを歩いて、五島の景色や暮らしている方々の姿を見て、人間の原点みたいなところにいらっしゃると感じました。何度でも訪れたいところ」と思った。「最高の人生の見つけ方」の撮影が長崎市で行われることが決まると、五島列島をロケ現場の1つに選ぶことを製作陣に提案し、天海祐希と撮影を行った。

五島の椿プロジェクトは1000万本以上、自生する椿を核に、商品開発から消費までを循環させることで継続可能な産業と雇用を創出し、新たな地域活性のモデルケースを目指す。その裏には、100キロ離れた長崎市に進学するため、島を離れる学生と、仕事を求め、若い世代が県外に流出することによる人口減少という課題がある。出て行った若者を島に戻すには、基幹の農林水産業、観光に加え新たな産業が必要という現実と危機感がある。

五島椿まつり開催中の20年2月28日に、五島市内で五島の椿プロジェクトのお披露目が行われる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中止。「いのちの停車場」の上映も、当初は21年秋に開催の予定だったが、コロナ禍で実施がかなわなかった。吉永は、同プロジェクトを企画した一般財団法人松下財団の松下剛代表理事に上映会開催を打診し続けたという。「実は昨年の秋にこの映画を五島の皆さんに見ていただきたいと思っていたのですが、コロナがなかなか収まらず実施ができなくなりまして本当にガッカリな気持ちになりました。何としてでもこの春には実施したいとお願いして本日実現に至りました」と振り返った。

その上で「私は60年以上、映画の世界で仕事をしてきましたけれども、映画がとても好きで、これからも、もう少し映画に出演していきたいと願っております。皆様にまた見ていただけるような映画を作って、そしてまた五島に来ますので、ぜひぜひ、応援していただけたらうれしいです」と、新作を手にしての再訪を誓った。