歌舞伎俳優松本白鸚(80)が初演から54年間にわたって主演してきたミュージカル「ラ・マンチャの男」のファイナル公演が24日、神奈川・よこすか芸術劇場で千秋楽を迎えた。

69年の初演から通算1324回目の公演。約1300人の観客がスタンディングオベーションでたたえ、ブラボーの声が次々に上がった。

白鸚は「初演から54年、足を運んでくださる皆さまのおかげで今日までやってまいりました。これからも命あるかぎり芝居を続けてまいります」と感謝を述べた。

松たか子、駒田一、上條恒彦らも含め、全員で「見果てぬ夢」を歌って公演を終えた。

劇作家セルバンテスが宗教裁判を待つ間の獄中で、遍歴の騎士ドン・キホーテの物語を即興劇で演じてみせる。見果てぬ夢を追い求め、あるべき姿のために闘う男を描いた。白鸚は、染五郎、幸四郎時代を通じ、セルバンテス、キホーテことアロンソ・キハーナ、3つの役柄を演じ分けてきた。

昨年のファイナル公演は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定されていた25回の公演は千秋楽も含め18回中止になっていた。

◆松本白鸚(まつもと・はくおう)1942年(昭17)8月19日生まれ。8代目松本幸四郎(初代白鸚)の長男。高麗屋。ミュージカル初出演は65年「王様と私」。歌舞伎では「勧進帳」の弁慶、「寺子屋」の松王丸など、器の大きな役柄が数多い。80歳を越えても初役に挑戦し新しい顔を見せる。映像ではNHK大河ドラマ「黄金の日日」「真田丸」、フジテレビ系「王様のレストラン」など。12年文化功労者、22年文化勲章。長男松本幸四郎、長女松本紀保、次女松たか子、孫は市川染五郎。

▽「ラ・マンチャの男」上演の歴史 

▼初演 1969年(昭44)4~5月帝国劇場。当時は市川染五郎。

▼ブロードウェー 70年に招待され、マーチンベック劇場で10週間60公演。

▼幸四郎時代 82年から15年の公演まで。

▼同一主演者ミュージカル上演回数日本新記録(当時) 01年の帝国劇場公演で通算901回。

▼1000回 02年の帝国劇場で達成。小泉純一郎首相、巨人松井秀喜(いずれも当時)ら来場。

▼白鸚時代 19年の公演(帝国劇場ほか)が白鸚襲名後の初公演。日本初演50周年記念も。

▼幻ラスト 22年2月日生劇場公演は、新型コロナの影響で25回中18回中止。

▼ファイナル 23年4月 10公演で1万3000人動員。

 

▽キャストの変遷

▼従僕サンチョ 69年初演~85年は小鹿敦(77~85年は小鹿番に改名)、89年は安宅忍、95~08年は佐藤輝、09~23年は駒田一

▼ヒロイン・アルドンザ 69年初演は草笛光子、浜木綿子、西尾恵美子、70~73年草笛光子、77~89年上月晃、95~01年鳳蘭、02~12年、22~23年松たか子、15年霧矢大夢、19年瀬奈じゅん

○…染五郎時代から「ラ・マンチャの男」を観劇してきたという神奈川県の女性は「白鸚さんにありがとうという気持ちです。(体への負担軽減のため)装置も変わりましたが、見続けてきて良かったです」と涙をぬぐった。昨年2月の公演が中止になり見られなかったという男性は「スタッフ、キャスト全員の愛で支えられた舞台でした。80歳の白鸚さんがすごすぎて、それだけでくるものがありました」と感激していた。