日刊スポーツ映画大賞を含め多くの映画賞で助演男優賞となった磯村勇斗(31)に昨年末、取材する機会があった。
この人の演技力についてはいまさら言うまでもないかもしれないが、昨年は「月」や「正欲」の特殊な役から、一転「渇水」で演じたまっとうな男の葛藤まで、その振れ幅と深さで突き抜けた1年だったように思う。
話を聞いてみると、役作りのこだわりは幼少期から培われてきたことがわかった。
「家に父のレーザーディスクがたくさんあって、それが最初の映画体験でした。スピルバーグとかルーカスとか時間があれば見ていましたね」
「スター・ウォーズ」を見てとりこになったダース・ベイダーは後に「仮面ライダーゴースト」の役作りに生かされている。
中学では自主映画を製作した。
「テレビアニメで見ていた『アルプスの少女ハイジ』を地元に置き換えまして、『沼津の少女ハイジ』という作品です(笑い)。発達した日本の医療のおかけでクララが立つところから始まるストーリーなんですよ。当時は僕の学校でもいじめがあって、『-ハイジ』へのオマージュとともにいじめへの問題意識も折り込みましたね」
照れくさそうに語ったが、ひねりの効いたパロディーに社会性を盛り込んだ中学生離れした題材だ。高校時代には地元の劇団「沼津演劇研究所」に入って、ベテランぞろいの環境で演劇の基礎を学んだ。そして大学を2年半で中退してプロの世界に飛び込む。
デビュー作は2時間ドラマ「事件救命医2~IMATの奇跡~」(14年)。
「バスジャックのテロリストの役でした。今思うとデビュー作ということもあったのか、自分でいろいろ取材したり、作り込みすぎていた気がしますね。やけにこってりした芝居をしていた気がします。トータル3分くらいしか映らない役だったんですけど」
NHK連続テレビ小説「ひょっこ」(17年)でヒロインの相手役を務めたのは、「仮面ライダーゴースト」で注目された直後だった。
「『ライダー』の感じが残っていたんですね。演出の方から『ちょっとかっこつけた感じになっている』とずいぶん注意されました。見習いコックの役で、調理場でのアルバイト経験も生かせたし、プロの方の指導も受けたので料理シーンは吹き替えなしでやることができました」
この年、「珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー」の料理王に出演して優勝するというおまけもついて、劇中の「腕前」が本物だったことを実証している。
一方で、NHKのスタッフは、磯村には最後までヒロイン(有村架純)と結ばれる筋書きを明かさなかった。
「そうなんですよ。だから、自然に演じられたのかもしれません。知っていたら、いろいろ考えすぎちゃったんでしょうから」
演出サイドも「作り込みすぎる癖」を念頭に置いていたようだ。
「あれから、自分の余計な部分を捨てていくという感覚が身に付いたような気がします。それまでも、完成品を見て、自分でも浮いているなあと思うことありましたし。自分でも作品に溶け込めたという実感が持てるようになったのは藤井道人監督と出会えた『ヤクザと家族』からですね。(主演の)綾野剛さんとともに、寄り添って教えていただけたのが大きかったですね」
それでも、今回の受賞の対象となった「月」では「頭には現実の死刑囚のイメージが間違いなくあるわけですし。役に入り込んで行って、実際に危ないな、自分が壊れてしまうかも知れないと思う瞬間がありました」と振り返る。
そんな薄氷の演技が、今後も見る側をざわざわさせてくれそうだ。【相原斎】



