やっぱり愛してる、北海道…。その思いが、大泉洋(50)の全身から、言わずともにじみ出ていた。
大泉は26日、アニメ映画「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」(永岡智佳監督、4月12日公開)の舞台となった北海道函館市で行われた公開前イベントに、声優の山口勝平と参加。劇中で描かれる五稜郭、金森赤レンガ倉庫街、そして函館山を相次いで巡った。
北海道江別市出身の大泉は、北海学園大在学中にHTB(北海道テレビ)の深夜番組等に出演して芸能活動をスタート。同局のバラエティー番組「水曜どうでしょう」への出演で、全国にその名を知られるようになった。また、同大演劇研究会時代の1996年(平8)に結成されたTEAM NACSのメンバーとして、北海道を中心に演劇、舞台の活動を続けてきた。
そうした経歴も踏まえ、大泉には囲み取材の中で、北海道と函館市への思いを聞く質問が相次いだ。大泉は「父が以前、教師として赴任していたこともあったものですから、幼少期に来て、旅行をして、子ども心に何て見るところが多い街なんだろうと思った。初めて旅行が楽しいと思ったのが函館」と、目を輝かせつつ語った。そして、こう続けた。
「今までの人生で考えると、多く来ているんじゃないですか? プライベートでも、NACSの公演とか、イナダ組という昔、私がやっていた劇団でも、来させてもらっている」
「イナダ組」というフレーズが耳に刺さった。「イナダ組で何回くらい、来ましたか?」と尋ねると、こう続けた。
「いやぁ…何回、来たかなぁ? 1、2回くらい、来ているのかな? ちょっと僕も、はっきり覚えていないんだけどね」
完全に、口調が北海道弁になっていた。それは、東京から取材に足を運んだ記者の中から、図らずもイナダ組というフレーズに食い付いた記者がいたからだろう。イナダ組とは、札幌市を拠点に活動する演劇集団だ。88年に演劇活動を開始した主宰のイナダ氏が、92年から定期公演を行うために立ち上げた。TEAM NACSのメンバーも、大泉をはじめ北海学園大の先輩にあたる森崎博之(52)戸次重幸(50)同期の音尾琢真(48)が在籍。大泉らが東京に進出するために離れ、イナダ組も13年から所属俳優を抱えず、自由なキャスティングをする形に劇団のスタイルを改め、今に至る。
北海道弁へのこだわり、熱い思いは「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」にも注ぎ込んだ。大泉は劇中で、主人公江戸川コナン(声=高山みなみ)らと顔見知りの北海道警捜査一課・西村警部の部下・川添善久を演じた。現場に遅刻して来たり、パトカーで縁石に乗り上げたりとドジながら、函館にまつわるお宝伝説や宝を狙う容疑者の裏事情に、やけに詳しい刑事という役どころ。26日夕方に函館山で行ったトークショーの中で、自ら提案して北海道弁をセリフに加えたと明かした。
「(川添は今後。シリーズには)もう、二度と出ないだろうな、という感じ。もう出ねぇな、という空気がありますね。せっかく、北海道警察という設定の人ですから、どこかに北海道弁を…。(自分は)ネーティブ北海道ですから、その辺は入れたかった」
具体的に加えた北海道弁と、シーンについても説明した。
「『わや』って、言うんですよね。これ、割といろいろなところで、よく使う言葉。メチャクチャだ、大変なことになっちゃった、みたいな(意味)。まさに、バンと車をぶつけたら、バンパーを見て『あぁ、わやよ』と言うわけです。遅れて飲み会に行って、酔っぱらいがガンガン騒いでいたら『もう、わやだ』みたいに使う。(川添が車を)ぶつけるたびに言いました」
そうして語る中で、函館山でのイベントだったからか、函館が北海道の中でもなまりが強い土地であるということに話は及んだ。
「でも(自分は)ネーティブ北海道と言いましても正直、函館の人ほど、なまっちゃいないですけど。ディすっているわけではないけど、函館は若干なまりが強い」
そして、函館のなまり「へくせぇ」を口にした。山口から意味を尋ねられると、解説した。
「『へくせぇ』はね、結構、ひどい言葉。大学生が集まっているアパートとかで、イマイチいけてない感じの時に使うんだよね。『お前の彼氏、へくせぇな』とか結構、言いますね」
山口から、ばからしいなどを意味する北海道弁「はんかくさい」とは、どう違うのか? と問われると、大泉は「はんかくさい、とは違うね」と即答。「もうちょっと乱暴なんですよ。札幌とかでは使わないですからね。『へくせぇ』と言うと『くさい?』と…直接、屁? という感じ」と答えた。
客席で大笑いする観客の気持ちが、よく分かる。記者は北海道出身で、函館にも一時期、住んだことがあり「わや」も「へくせぇ」も、当時は普通に口にしていたからだ。「へくせぇ」以外にも、函館周辺でしか使わない、なまりの強い北海道弁だったり、言葉の用法はある。
今は東京で映画担当記者をしており、大泉が主演、出演する映画の会見、イベントには基本的には足を運ぶし、会見では直接、質問をしたことも少なからずある。それでも、北海道弁が飛び出すなど、この函館山でのトークショーほど大泉が素の表情をかいま見せた会見、イベントを記者は知らない。「ご存じ、大泉洋でございます」という登壇時のあいさつも「水曜どうでしょう」でのトークを思い起こさせた。
大泉は、記者が北海道への思いを聞くと「北海道に観光客が来て欲しいという思いがある」と熱っぽく語った。その思いは、道民である記者も同じだ。今度、東京で大泉をインタビューし、互いに外から見つめる立場からで、北海道への思いを聞いてみたい。互いに“ネーティブ北海道”なのだから、北海道弁丸出しで、忌憚なく語り合いたい。【村上幸将】