高橋一生(43)の芝居を見ていて、何を考え、思い、演じているのか…そのあたりを1度、聞いてみたいと思っていた。舞台あいさつ、イベント等で語る声のトーンは低く、落ち着いた口ぶりながら、その言葉は力強い。1つ1つの言の葉が、考え抜いた末の、それだと分かる。だから、ずしんと耳に突き刺さり、胸の奥にしみる。短時間でも良いから向かい合い、語ることで、脳内の一端に触れてみたくなった。
機会があるたびにオファーしてきたが、高橋に出演作が相次ぐなど多忙で、実現しなかった。それが、10日にNHK 総合で放送されたドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズ最新第9話「密漁海岸」放送を前に、その機会がめぐってきた。
ドラマ本編の試写後にインタビュー、という流れだったので、数日前から聞きたいことを考え、まとめた上で試写を見た。主人公の漫画家・岸辺露伴を演じる高橋を見ているうちに、事前に考えてきた質問の大半が、愚問だと思えてならず、試写の最中にほぼ全て放棄し、試写を見て感じ、受け止めたまま伝え、語り合うことに決めた。
劇中で、露伴は編集者の泉京香(飯豊まりえ)と、新規にオープンしたイタリア料理店を訪れる。シェフのトニオ(アルフレッド・キャレンザ)は快活で、提供する料理も美しく、美味であることは分かる。まず、泉が料理を口にすると、目から涙が止まらなくなる。いぶかしげに料理とトニオを見つめていた露伴も一口、食べた途端、床の上でのたうち回ったが、収まるとスッキリした顔をする。そして、トニオが一見しただけで客の体調、体の問題点を見抜き、料理で客の体の悪いところを改善させる力を持っていることを見抜く。
そのシーンで演じた、意識を失わんばかりに苦しむ姿は、体に激しい副反応のようなものが本当に出ているようにしか見えなかった。脳内でどのようなことを考え、構成しているのかを尋ねると、高橋は「どうなんですかね…多分、どういう動きをやると、自分のことをだませるのか? ということは経験則として、きっとあると思います」と答えた。そして、具体例を語り出した。
「お芝居の1つの技術として、ポーズから感覚的なものを引き出すのって、きっとあると思うんです。例えば(歯を)グッとかみしめるだけで頭にきたりとか、もしかしたら形から指示される感情とかというものも、たくさんあるはずで。そういったものを使うと、割と効果的に自分のこと、脳みそをだませるみたいなことが多いので、そういうやり方をしているのかも知れませんね」
俳優は演じる役を生きると言うが、そのために必要な取り組み、手法を、ここまで具体的、かつ明快に説明されると、実に分かりやすい。あれだけ床で、のたうちまわるには、それくらい苦しい心身の状況に、自らを置かないと無理で、そのための手法として「自らの脳をだます」と説明した言葉、表現も実に面白い。
高橋は、荒木飛呂彦氏の同名原作漫画を高校時代から愛読しており「精神性のようなものには多分に影響されている」と語っている。そのことを踏まえ、よほど露伴が好きでないと、ここまでできないのではないか? と尋ねると、今度は「岸辺露伴は動かない」シリーズという作品の枠を超えて、俳優として役に向き合う際の心持ちについて語り出した。
「そうですね…やっぱり、役だから。例えば、大体、この位置に立って下さい、という立ち位置があるんですよ、僕らって。ロケ地だと…多分、本当にあと何人か乗ったら崩れます、という崖のところに、売っているような鉄のヤツが置かれていて。『高橋さん、あそこに入ってください』って言われたら、行きますもんね。バカだから。多分、そういう感覚でいちゃうのかな」
続けて、芝居をする時の心持ちについて口にした。
「お芝居やる時も、好きだからやるというよりも、いかに世界観を、みんなで作っていくかということに集中し過ぎちゃって…そういうことになっている気がしますね。これ、やれと言われたら、やるし」
「岸辺露伴は動かない」シリーズを制作するスタッフとも、物作りにおいては考え方において、完全に一致を見ているのだろう。「シリーズが、この先、どこに向かうのか? 何て聞くのは愚問ですね。突き詰めて露伴を作るのに集約していることは試写を見れば分かります」と語りかけると、高橋は「それは、うれしいですね」と笑みを浮かべつつ、こう答えた。
「どのスタッフも多分、そうなんじゃないですか? カメラの山本(周平)さんにしても、いかに露伴らしく、露伴的に撮るかということに、かつ、やはり守破離しているんで、これまでやってきたことは、というのやりたくないでしょうし、いかに違うやり方で、かつ露伴らしくやる、ということに執心しているような気がしますね。もう、露伴のことばっかり考えている皆さんです」
「多分(監督の渡辺)一貴さんも、僕もそうですけど、大いなる、とんでもない説得力みたいなものを得てきたのには、自分たちがどれだけ納得できるか? ということに、答えは行き着いているんだと思うんですよね。全く誰の顔色もうかがわず、自分は自分のパートのところを思い切り、ど直球投げるということは各チーム、各分野が(人物デザイン監修の)柘植伊佐夫さんもそうですけど、全力で投げているんだと思います」
作品の世界観、そして自ら演じる役を作り込むことに、とことん集中し、どこまでも真っすぐに進み続ける俳優・高橋一生。これからも機会があれば作品ごとに向き合い、語り合ってみたい。作品と役に向き合うスタンスには、一片の揺るぎもないだろう。ただ、物語が違えば、役どころも全く異なる。それを、どう解釈、分析し、飛び込み、挑んでいくのか…その脳内に、ますます興味が湧いた。そう思えるほど、取材を通じた意見交換は、豊かだった。【村上幸将】



