日本映画製作者連盟(映連)が1月28日、都内で新年記者発表会を開き、邦画と洋画を合わせた2025年の年間興行収入(興収)が、前年比32・6%増の2744億5200万円と、興収での発表を始めた2000年(平12)以降、最高記録を挙げたと発表した。島谷能成会長(73=東宝会長)は「うれしいお知らせでございまして、新記録が生まれました」と、笑顔で報告した。
内訳は、邦画が前年比33・2%増の2075億6900万円で、洋画が同比30・7%増の668億8300万円だった。19年の2611億円が、それまでの最高で、同会長は「飛躍的に業績を拡大させた大豊作の1年」と評した。邦画と洋画の割合は、75・6%対24・4%。入場人員も、前年比30・7%増の1億8875万6000人で、19年の1億9491万人に続く歴代2位の記録だった。
トップは、アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」(外崎春雄監督)で391億4000万円。2位は実写日本映画興収記録を22年ぶりに塗り替えた「国宝」(李相日監督)で195億5000万円。いまだ公開中の両作品が、熱烈な映画ファン以外の、一般の観客の足を映画館に向けさせた力は大きい、との声は、現場で取材していても根強い。特に「国宝」は、アニメに押されていた実写復権の原動力となったとの賛辞の声が業界でも多数、ある。島谷会長は「あれだけの製作費を使って、時間をかけて撮った作品の労力は、お客さんは確実に見抜いて来ているな」と「国宝」を評価。「個人的には『宝島』も素晴らしいと思いましたけど、きちんとしたスケール、クオリティーを追求する作品を、日本映画は追求していかなければならないなと。大きな予算をかけ、具材たっぷりの物語を美しく…クオリティーの高い作品が増えていくのではないか」と期待感を示した。
映画記者としても、確かにおめでたい話ではある。ただ、発表の中で、島谷会長が1つの情報として「平均の入場料金、単価は1454円と、前年より21円、上昇。一般料金を2000円以上にする劇場が、さらに拡大したこと、IMAXなどの、特別料金のスクリーンの興行が観客に広く支持されている傾向も影響していると思われます」と口にした言葉に、引っかかるものがあった。果たして、観客は、本当に支持しているのだろうか? と。
記者は、24年11月11日の当欄で「東京国際映画祭閉幕前日に映画記者の心に突き刺さった『映画は富裕層の娯楽』の声」と題したコラムを書いた。閉幕前日の同5日に開催された、エシカル・フィルム賞授賞式で、取材陣や一般の参加者に向けた質疑応答の時間になった。すると、客席にいた1人の女性が手を上げ「映画は富裕層の娯楽という認識がある。一般人が広げるのに簡単にできることは?」と口にした。記者は、当該コラムの中で、次のように書いている。
「女性が指摘した通り、映画鑑賞料金は近年、値上げが続いている。大手シネコンチェーンのTOHOシネマズが、23年6月に料金を一律100円値上げしたことを受け、その他のシネコンチェーンや映画館も追従した。シネコンチェーンや各映画館によって、若干の差はあるが、TOHOシネマズの一般料金は2000円。そこに、飲食代、グッズ代等々が加われば…カップルや家族連れで行けば、4、5000円はくだらないだろう」
島谷会長の発言を聞き「映画は富裕層の娯楽」と口にした女性の言葉が脳裏をよぎり、記者は質疑応答の最後に手を上げた。「良い作品は確かに見られるのだろうが、2000円は高い、映画は高級娯楽になってしまい、なかなか映画館に行けない、という声がある。観客への還元含め、そのあたりを、どう思っているのか?」と投げかけた。すると、島谷会長と映連各社の社長から、次のような回答が返ってきた。
島谷会長 これ、ずっと見ていますと…相当、前から、ほとんど平均の入場料金が上がっていない。去年は、15%の映画館が2100円になった。1980年(昭55)が1009円。初めて平均が1000円になった。それから、45年たっている。昔はコーヒー1杯、タクシーの初乗り料金と比べてきたが、今のインフレ、物価高を考えても、いろいろ比べても、なかなか、これが上がっていないんですよね。サービス料金で皆さん、利用しているんじゃないか?
松竹・高橋敏弘社長(58) 実際、高いかどうか? という議論でいくと、そんなに高くはないと思っていますが、劇場にお客さんを呼ぶ努力は各社、劇場の設備を一生懸命きれいにしたり、IMAXだったり、ドルビーシネマだとか、新しいフォーマットを入れて、環境を整えているのは間違いない。一般の皆さんに、多く見ていただく努力を、各社がしていくのは変わりない。水道・光熱費が上がっているので、劇場料金はこれから全体のバランスを考えた上で値上げすることもあるだろうし。今は、6回、見たら、ただとか(サービス施策も)やっている。企業努力を、しっかりしていくことが大事。
東宝・松岡宏泰社長(59) 業界単位の話と、個社単位の話があると思う。個社の努力だけで(観客が)増えることはない。良い作品があって、すばらしい環境で上映できれば、お客さんが来てくださる。業界、個社単位で何ができるかは、毎日、皆が考えていること。個社の話で言うと、3月に「TOHO-ONE」をローンチする。TOHOシネマズだけではなく、さまざまな東宝のサービスをお使いになっている方々を、統合したIDでつなぐことで、例えばミュージカルをご覧になった方が映画館に行くと、ポイントを使って映画が見られる。ポップコーンを買っても、ポイントになる。観客動員に繋がっていくのではないか? 料金のことについても、高いとおっしゃる方もいらっしゃれば、こんな価格で2~3時間も楽しめるなんて、素晴らしいと言う方もいらっしゃる。月に2、3回、見るとなると、1800円と2000円の差はあるだろう。それを、どのようにしていくかは個社の判断。
東映・吉村文雄社長(61) 私どもは、ティ・ジョイという興行会社、子会社を持っていますけども、昨夏に先んじて料金を上げさせて頂いた。高いか安いかは、個人のご判断だと思いますが、映画館を運営していくことにおいては昨今、全てのものの価格が上がっている。まず光熱費。映画館は、お客さんが入っていようが入っていまいが、上映スケジュールに沿って上映している。特に、夏は猛暑がかなり堪えていまして、空調の増強、設備投資を劇場によっては追加したところもございます。何より、特に地方の劇場が人手を集めにくい。アルバイト代も高騰しており、人件費に割ける部分を逆算すると、各地の最低賃金くらいでないと募集ができず、スタッフが集まりにくい中、改善するために料金を上げる判断を取らせていただいた。製作費も、かなり高騰しています。撮影日数、時間も以前よりは平均して延びており、資材費も高騰。宿泊を伴うと、かなり高くなり大体、20数%は平均で製作現場(の費用)が上がっている状態。普通の商品は、原価に対して価格が決まるものだと思いますけど、映画は不思議で、料金は2000円前後の歩合で、映画館と配給会社で(興行収入を)分け合うモデル。変な話ですけど、低予算の映画でも上映料金は同じという中で、やりくりしないといけない事情がある。劇場からは、料金を上げると逃げたお客さんが戻って来ないのでは? と、かなり抵抗の声はありましたけど、上げさせていただいた後の推移を見ても、今のところ、それほど以前より減っている状況はない。こちら側の勝手な推測ではありますけど、このレベルの値上げに関しては受け入れていただいているのかなと。当然ですが、上げた以上、劇場としての施策として、お客さまへの還元する形で、足を何度も運んでいただけるような環境作りには努めて参りたい。
映連は、KADOKAWAを含めたメジャーと言われる映画4社で構成される、業界最大の団体だ。その各社においても、物価高騰の波が押し寄せ、映画館を経営していくために料金を上げたり、上げた中で、何とか観客に還元していこうという施策に取り組んでいることは分かった。
一方で、ミニシアターと呼ばれる単館系の映画館は、20年のコロナ禍で集客が落ち、存続の危機に立たされた。そこを乗り越えた今、今度は2010年代にデジタル化が進み導入したデジタル映写システム(DCP)に寿命がきたことで、更新による多額の設備投資の壁にぶち当たっている。資金を集めるために、クラウドファンディングを行っている映画館もある。
毎日のように映画館で取材しているが、シネコンばかりではなく、ミニシアターにも足を運ぶ。見える風景が違うからこそ、映連の会見で心に引っかかるものがあったのだろう。だから、今年も映画館に通い、取材を続け、伝え続けていこう…と気持ちを新たにした。【村上幸将】



