8代目尾上菊五郎がこのほど、「四月大歌舞伎」「團菊祭五月大歌舞伎」(ともに東京・歌舞伎座)の取材会を行った。物事の捉え方、言葉の選び方、どれも真面目で、真摯(しんし)な様を感じた。
4月の昼の部では、音羽屋ゆかりの「裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ)」に初めて挑む。お家騒動を背景にした演目で、3役を演じる。菊五郎は「人としてどう生きるかが描かれている」ととらえている。
3役はそれぞれの立場を背負っている。乳人(めのと)政岡は高潔な忠義、仁木弾正は深い闇のような悪、そして、ひょんなきっかけで悪に陥ってしまう下男小助。菊五郎は「政岡は理想。政岡のように生きたいですが、政岡のようには生きられず、仁木弾正のようにも悪くはできない。いわば、小助のような人生を送っている」と言い、「(作者の)鶴屋南北さんは、あなたたちはどう生きたいですか、と観客に訴えている」とした。菊五郎の言葉を聞いて、見方が一つ加わったように感じた。「どう生きたいか」を考えながら見たらおもしろいなと思った。
「どう生きるか」の話が、世界情勢につながったのも興味深かった。ウクライナ情勢、中東情勢などに触れ、不安定な世界の中で「どう生きるか」が問われている、と真剣な表情で語った。
ほかにも、5月に演じる、5役を踊り分ける「六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)」への取り組みでは「(以前の舞踊会で)四苦八苦した」と言い、そこから、「四苦八苦」の意味を分解し、仏教の知識も交えて解説し、最後は演じるためのアプローチとして大切だという話になった。菊五郎らしさが分かる実直な話だった。
堅い話題ばかりではなく、WBCについて触れる場面もあった。「裏表-」の表で起こった出来事を描いた「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」には、「飯(まま)炊き」と呼ばれる、茶道具を使ってご飯を炊く名場面がある。「裏表-」にはない場面なのだが、菊五郎は「『裏表-』にも、ぎゅっと凝縮して短い飯炊きを入れます」とし、「WBCでもお茶立てパフォーマンスがありますが、やはり日本人にとってお茶は心のよりどころ」と話した。
WBCや野球について聞くと「ベースボールという文化から野球という文化が日本で発達したように、我々の庶民の娯楽も出雲阿国から始まって連綿と磨き上げられてきました。日本人は、1つの文化を守り、磨き上げていくことにたけている。WBCの選手たちを励みに、自分も歌舞伎道として自分の芸能を磨き上げていきたいという気持ちで、奮い立たされます」と、歌舞伎との共通点も語ってくれた。



