1960年代の任侠(にんきょう)映画で支持され、「幸福の黄色いハンカチ」などで知られた日本映画を代表する俳優の高倉健(たかくら・けん、本名小田剛一=おだ・ごういち)さんが10日午前3時49分に悪性リンパ腫のため都内の病院で亡くなった。83歳だった。2012年の主演映画「あなたへ」以来の新作映画の準備中に体調不良で入院し、治療中だった。高倉さんの遺志で近親者のみで密葬を済ませた。

 あまりに突然の訃報だった。高倉さんの個人事務所「高倉プロモーション」がこの日正午前に高倉さんの死去を伝えるファクスをマスコミ各社に送った。

 「映画俳優高倉健は、次回作準備中、体調不良により入院、治療を続けておりましたが、容体急変にて10日午前3時49分、都内の病院にて旅立ちました。生ききった安らかな笑顔でございました」と亡くなるまでの状況を説明した。

 病名は悪性リンパ腫。ファクスには「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」との高倉さんの言葉も添えられていた。遺体が病院を出る時には治療に携わった病院スタッフがそろい、涙とともに見送ったという。高倉さんの遺志に従い、すでに近親者のみで密葬を行ったという。

 高倉さんは12年に前作「単騎、千里を走る。」から6年ぶり、205本目の主演映画となる「あなたへ」を公開。同年の「日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞」で主演男優賞を受賞した。06年に文化功労者、13年には文化勲章を受章し、皇居での親授式にも出席した。その際に「日本に生まれて良かったと思える人物像を演じられるよう、人生を愛する心、感動する心を養い続けたいと思います。」とコメントした。

 高倉さんは55年に東映に入社。「網走番外地」「昭和残侠伝」シリーズなどで唐獅子牡丹(ぼたん)の入れ墨を背負った姿に健さんの「男の美学」に多くの男性ファンが熱狂して支持した。「死んでもらいます」の決めぜりふは全共闘世代の共感を呼んだ。その後も一貫して演じたのは苦難に静かに耐え、女性へのひた向きな愛を体現した主人公で、「幸福の黄色いハンカチ」「駅

 STATION」でファン層も広がった。

 当時の興行記録を塗り替えた「南極物語」、モントリオール世界映画祭で主演男優賞を受賞した「鉄道員(ぽっぽや)」、「ホタル」、遺作となった「あなたへ」まで、「耐えて」「しのぶ」ストイックな男性像を最後まで演じ続けた。ハリウッドの大作「ブラック・レイン」にも出演した。59年に歌手の江利チエミさんと結婚したが、71年に離婚した。映画では「健さん」として親しまれたが、そのプライベートは常にベールに包まれていた。映画で演じた役の男の生き様で多くのファンに愛された、最後の銀幕のスターだった。