11日に自宅を出てから行方不明になっていた人気漫画「クレヨンしんちゃん」の作者臼井儀人(うすい・よしと、本名・臼井義人=よしひと)さん(51)が20日、遺体で発見された。群馬・長野県境にある荒船山(標高1423メートル)の岩場で、19日に発見された男性の遺体を収容し検視の結果、身元が確認された。死亡推定時刻は11日午後で、死因は全身強打による肺挫滅(ざめつ)と発表された。警察では登山中に滑落したとみて、自殺と事故の両面で調べを進めている。遺書は見つかっていない。

 90年の「週刊Weekly漫画アクション」連載スタートから、足かけ20年にわたって「クレヨンしんちゃん」でお茶の間に笑いを届けた臼井さんが非業の死を遂げた。

 この日午前8時すぎ、群馬県警の機動隊や下仁田署員ら35人が、遺体収容のために同署を出発。午後0時20分ごろに、艫岩(ともいわ)のがけ下約100メートルにある遺体までたどり着いた。遺体の服装は11日と同じチェックのシャツにグレーのTシャツ。ジーパンは滑降中に脱げていた。付近には靴、リュックサック、壊れたデジタルカメラなどが散乱し、リュックの中には携帯電話とサイフがあった。人力で収容するのは困難な急斜面のため、ヘリコプターで遺体をつり上げて同3時50ごろに下仁田署に運んだ。遺体の損傷は激しく骨折もしており、顔も確認が困難な状況だったという。そのため、検視作業は5時間近くに及んだ。本人確認の決め手は歯型だった。死亡推定時刻は11日午後で、死因は全身強打による肺挫滅。検視を同署で待った臼井さんの妻と子どもたちは、変わり果てた姿の臼井さんと9日ぶりに対面した。

 臼井さんは11日朝、「荒船山に行く。夕方には帰る」と家族に告げて外出。翌日になっても帰宅しないため、妻が12日に埼玉県警春日部署に捜索願を出していた。これまでに、12日に長野・軽井沢付近、13日に荒船山近くの群馬・下仁田町で臼井さんの携帯電話の微弱電波を確認した。下仁田署では「電波確認は完ぺきではない。このエリア内なら誤差の範囲内かもしれない」と、転落現場の電波をキャッチしていた可能性を指摘した。

 下仁田駅から登山口まで臼井さんを乗せたタクシー会社の職員は「帰りの予定を聞いたら『検討中』と答えたそうです。多くの人は帰りも予約するものなんですけど」と話した。帰りの足を考えない自殺を覚悟した行動とも取れるが、山歩きが趣味の臼井さんだけに、別の帰途ルートを確認していたかもしれない。遺書は見つかっていないが、群馬県警では自殺と事故死の両面で調べを進めている。事件性はなく、司法解剖することなく遺体は遺族に引き渡された。

 臼井さんの姿は11日、荒船山へ行くための経路地となるJR高崎駅の防犯カメラ映像にも残されており、確認した妻は「事故であってほしい」と話したという。普段は約束通りの日程で戻る夫の10日にわたる消息不明に、覚悟を決めていたのだろうか。子供から大人まで幅広く愛された「しんちゃん」の生みの親が、自ら命を絶つことだけはないように。そう願う「事故であってほしい」だったのかもしれない。

 [2009年9月21日9時9分

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