歌手桑名正博(58)が、意識不明の重体に陥っていることが15日、分かった。所属事務所関係者や親族によると、同日午前4時半ごろに大阪市内の自宅で倒れ、搬送された同市内の救急病院で脳幹出血と診断された。桑名は呼びかけに反応を示すこともあるが、意識は戻らず予断を許さない状態が続いているという。ミュージシャンで長男の美勇士(31)は会見とツイッターで、父の死を覚悟したかのような心境を語った。

 桑名の容体が急変したのは、午前4時ごろだった。香川県小豆島でのライブを終えて14日に自宅に戻り、スタッフらと15日未明までミーティングをしていたところ、激しい頭痛に見舞われたという。同4時53分に救急車で大阪市内の病院に搬送された際は血圧が260まで上昇し、呼吸が停止した状態だった。人工呼吸器で呼吸は戻ったが、意識不明の状態が続いている。

 午後8時に病院内で長男でミュージシャンの美勇士らが会見を行い、病状を説明した。主治医は「呼吸をコントロールしている脳幹の出血が激しく、破壊されているような状態。手術不可能な部分。積極的にできることがない」と、険しい表情で話した。美勇士は「突然、前触れもなく倒れたのでびっくりしている。母と父の3人で一緒にライブをやるのが夢だったが、かなわないかもしれない」と言葉を詰まらせた。美勇士が桑名の元妻で、ロサンゼルスにいる母親のアン・ルイスに連絡を入れたところ、アンは「信じられない。すぐには行けない。祈りをささげるから支えてあげて」と話したという。

 桑名はロックもバラードも歌えるミュージシャンとして高い評価を受けてきた。95年の阪神・淡路大震災では被災地でボランティア活動を展開。00年には家業の貿易会社社長に就任。大阪を拠点に、ドラマや映画など俳優としても活躍し、自主レーベルからCDを発売。障害者支援などボランティア活動にも積極的に取り組んでいた。

 今年はデビュー40周年。関係者によると「今年は40回。来年は還暦だから60回。合計100回のライブをやる」と宣言していたという。一方で、普段から血圧が高めで、片頭痛の持病もあった。昨年から今年にかけて親交があった原田芳雄さんや安岡力也さんが亡くなり、酒が入ると涙を見せることもあったという。

 美勇士は「『生きてるうちが花。音楽を一生懸命やる』と話していた。死期が近づいていると感じている部分があったのかもしれない」とうつむいた。会見後には、自身のツイッターを更新し、「もうどうやっても助からないみたいですが、あと少しの時間を一緒に過ごしたいと思います。愛してるよ、おやじ。」などとつづった。その後、再度会見し、「医師からはあと1日もつかどうかと言われています」と明かした。

 ◆桑名正博(くわな・まさひろ)本名同じ。1953年(昭28)8月7日、大阪市生まれ。ロックバンド、ファニーカンパニーを結成し、72年「スウィートホーム大阪」でレコードデビューも2年後に解散。ソロ歌手に転向後、79年「セクシャルバイオレットNo.1」などがヒット。80年にアン・ルイスと結婚し、81年5月に長男美勇士が誕生。84年にアンと離婚。86年に再婚した女性との間にも1男。血液型A。

 ▼脳幹出血

 脳出血の1つで、呼吸や体温、心臓の働きを制御する中枢である脳幹部(中脳、橋、延髄)からの出血を指す。生命維持に不可欠な機能から起こる出血で、後遺症の可能性が高い。また、脳幹は脳の一番奥にある部分のため、基本的に手術は難しい。大量出血が起こると呼吸が止まってしまい、発作後数分で死に至るケースがある。