これが厳罰化なのか? 

ネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策として侮辱罪の刑罰を重くする改正法案が、いまの国会で成立する。それに先がけて、私は元高級官僚の高齢ドライバーの暴走事故で最愛の妻と3歳の娘を失った松永拓也さん(35)を取材させてもらった。

事故後、悲しみの中で高齢ドライバー対策と交通事故撲滅を訴えてきた松永さんも中傷の被害者だった。ツイッターアカウントに「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでしたね」「お荷モツの子どもも居なくなったから乗り換えも楽でしょうに」などのメッセージが届いて被害届を提出。22歳の男が侮辱罪で書類送検された。

私がお会いした日、松永さんは、ネット上で「性格悪い」「生きている価値あるのか」などと中傷され、命を絶ったプロレスラーの木村花さんのお母さんと侮辱罪の問題で国会に足を運んでいた。花さんを中傷した男2人は現行の侮辱罪で書類送検されたが、22歳の女性を死に追い込んでおきながら、処分結果は9000円の科料。携帯電話で通話しながら運転した際の反則金の半分という額だ。

こうした状況に花さんの母親たちが声を上げ、今国会でこれまでの侮辱罪の「30日未満の拘留または1万円未満の科料」に、新たに「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を加えることになった。

だけど悲しみの底にいる人たちをここまで傷つける誹謗中傷に、国会はこの程度の法改正でよしとしたのか。

ちなみに現行刑法の器物損壊罪は3年以下の懲役・禁錮。国会議員のみなさん、人の心は、壊されても器物(モノ)以下なのでしょうか。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。