新型コロナウイルスの感染拡大が、自身に関わる選挙のたびに「劇場」をつくりだしてきた東京都の小池百合子知事に、環境の変化を生み出している。小池都政の足元の顔ぶれを決める東京都議選が、25日に告示される(7月4日投開票)。前回2017年の都議選では小池ブームの勢いの中、自ら都民ファーストの会を率いて公認候補者50人中、49人が当選、最終的に55議席の第1党に躍進させた。しかし小池氏は今回、告示まで2週間を切っても都民ファや選挙全体への向き合い方の表明も含め、動くに動けない状況に直面している。

前回小池氏と激突して惨敗し、この4年間も緊張関係が続いてきた都議会自民党は、前回都民ファと組んだ公明党と連携する。国政では連立政権を組む自公と対立しては、国とのつながりが欠かせない都のコロナ対策にも影響する。小池氏はこれまで都議選への向き合い方を問われても、はっきりした態度を示していない。これがまた、さらなる臆測を生む。コロナ禍ではなかったため単純に比較はできないが、告示前からガッツリ、選挙モードになって「劇場」を作り出した4年前とは対照的だ。

そんなこともあってか、関係者に話を聞いても、小池氏の動きが読めないことを挙げながら「票読みがしづらい」とこぼす。

自民公認候補とのガチンコ勝負で圧勝した2016年の都知事選に限らず、小池氏はこれまで選挙を「劇場」の場にしつらえてきた。初当選した1992年参院選、政権交代が起きた1993年衆院選では、当時所属した日本新党の「顔」の1人。2005年衆院選は、選挙区を替えてまで小泉純一郎首相(当時)が訴えた郵政民営化に反対する身内への「刺客候補」の象徴となった。

2016年都知事選での劇場ぶりは言わずもがな。2017年衆院選は電撃的な国政挑戦で劇場化を目指したものの、結果的にしぼんでしまったが。

コロナ禍で再選された昨年の都知事選は街頭にも出なかったが、今年1月、自身に近い都民ファ都議が千代田区長選に出馬、自民党候補らを破って当選した時は「小池さんがあそこまで出てくるとは」と言われるほど連日街頭で応援した。以前、取材した都政関係者は都議選について「小池さんは戦う気満々ではないか」と話していたが、緊急事態宣言が解けない中では、コロナ対策も五輪も政府との関係が欠かせないのが今の実態。自民党を完全に敵に回した劇場型選挙に踏み込むかどうかは今後の小池氏の政治行動も左右しかねない。

上野動物園で生まれた赤ちゃんパンダの「シャンシャン命名」を発表したほんわかムードの30分後に突然、緊急会見で国政挑戦を表明するのが「小池劇場」の一端だ。小池氏は都知事選出馬の際、かつて行動をともにした小沢一郎氏に「風がなければ、崖から飛び降りてでも自分で起こせ」と教えられたと話していた。ただ、コロナ禍の今、これまでのような風の起こし方は難しいだろう。

今週は、緊急事態宣言解除の是非を含めて事態が動く可能性があるタイミングだ。小池都政の足もとで都議の顔ぶれが決まる選挙を前に、「らしくない」言動が続く小池氏。次に踏み出す動き次第では、「小池劇場」も変質の時を迎えるのかもしれない。