衆院が解散され、10月19日の公示、同31日の投開票に向けて、多くの候補者が動き始めた。今月4日に第100代首相に選ばれた岸田文雄首相にとっては、就任直後、初めて国民の審判を受けるという、緊張感あふれる場。当初の投開票日予想から1~2週間前倒しされ、まさかの「10月決戦」になったのは、コロナ第6波が来ないうちに、新閣僚のぼろが出ないうちに、野党の準備が整わないうちに…など、守りの面での戦略が優先されたとの見方が多いが、とにもかくにも結果はその後の岸田首相の政権運営に影響する。思惑通りにいくかどうかも左右する、一大決戦だ。

この一大決戦の前に、岸田首相が国民の審判を受ける場がある。10月24日投開票の参院静岡、山口の補欠選挙だ。衆院解散の大波にすっかり隠れてしまっているが、2カ所とはいえ、まさに「直近の民意」が示される。2つの補選の現場では、衆院選とダブルの緊張感漂う戦いだ。

今回は、解散から投開票まで戦後最短という異例の短期決戦だけに、補欠選挙が、衆院選の直前に行われる日程も異例。衆院選よりも先に、補欠選挙の選挙情勢に関する情報も、永田町では飛び交っている。

時の政権にとって、発足後、初めての国政選挙は、当然、その後の政権運営にも影響を及ぼすが、それは補欠選挙の場合が多い。そして補欠選挙の勝敗は、政権にとってばかにはできない要素をはらんでいる。

地元の横浜市長選敗戦がとどめを刺した形だが、重要な選挙で負け続け、1年あまりで退陣した菅義偉前首相は、今年4月の衆参補選と再選挙で、自民が3敗だった。対照的に、それまで長期政権の1強時代を築いた安倍晋三元首相は、第2次政権就任後初めての13年4月の参院山口補選を、地元の利もあり完勝した。安倍氏は第1次政権の際も就任翌月の衆院2補選を勝利し、スタートダッシュに成功。しかし翌年4月の補選では2敗し、同じ年の秋に退陣に追い込まれた。

福田政権も08年4月の衆院補選で敗れ、秋に退陣。民主党政権でも鳩山由紀夫元首相こそ就任直後の補選を勝ったが、菅直人、野田佳彦両氏はいずれも就任後、初の補選を勝つことができなかった。

今回の補選は、安倍氏の地元で保守地盤の山口と、旧民主党系も小選挙区で議席を持つ静岡で行われている。特に静岡は、岸田氏が就任後初めての街頭演説で、自民候補の応援に入った。野党は立憲、国民の推薦候補と共産候補が出馬しているが、立憲、国民推薦候補には県知事が応援に入るなどし、与野党激戦になっているといわれる。

補選はもともと有権者の関心は低いといわれ、確かに投票率も高くない。しかし今回は、文字通り衆院選の前哨戦だ。公示の5日後、衆院選が後半戦にさしかかるタイミングに結果が出るだけに、結果は首相だけでなく、衆院選を戦う与野党陣営の士気にも影響しかねない。【中山知子】