参院選東京選挙区への出馬を表明する海老沢由紀氏の背後には、人気の吉村府知事との2連ポスターがはられていた(2022年4月13日撮影)
参院選東京選挙区への出馬を表明する海老沢由紀氏の背後には、人気の吉村府知事との2連ポスターがはられていた(2022年4月13日撮影)

投開票まで3カ月を切った今夏の参院選。全国に32ある定数1の1人区で自民党と野党、どちらが議席を獲得するかが選挙結果や今後の政治情勢を占う上で、1つの争点だ。もう1つ、数の上では1強状態の自民党と対峙(たいじ)する野党内で、選挙後どこが主導権を握るのかという点も、テーマでもある。

その野党間の主導権争いの中で注目されているのが、日本維新の会だ。昨年の衆院選で、選挙前から30増の41議席を獲得、議席を減らした野党第1党立憲民主党に次ぐ議席数を得た。その後、時に立民の政党支持率を上回る世論調査も出ている。そんな維新が、今回の参院選で議席獲得をねらうのが、大激戦の東京選挙区(改選6)だ。

維新といえば大阪発祥。昨年の衆院選では擁立した大阪の小選挙区ですべて勝ち、自民党を全敗に追い込んだ。大阪以外の関西圏でも徐々に勢力を増やしているが、関東、特に首都東京での勢力拡大は進んでいない。2012年の衆院選では、創設者の橋下徹氏が東京都知事だった故石原慎太郎氏と組んで全国的な勢力拡大への足がかりとしたが、その後の東西分裂もあり、頓挫。東京の勢力拡大は党の課題の1つでもある。

前回2019年の参院選東京選挙区で、現政調会長の音喜多駿氏が6人中5位で初当選。念願の東京での足場固めに踏み出した。ただ、この時、音喜多氏とともに選挙活動し、比例代表で初当選した柳ヶ瀬裕文参院議員(現総務会長)は、東京で議席を取れた背景を「維新の地力というより、(都議を務めた)音喜多氏の(もともと)持っていた票が大きかった」と話す。実際、昨年の衆院選は、比例復活のケースはあったものの小選挙区の議席獲得はゼロ。東京では都議や市議、区議が生まれてはいるが「勢力拡大」には至っていない。

今回の参院選で、維新は東京を最重点区の1つにした。4月13日に、現在大阪市議の海老沢由紀氏(48)の擁立を発表。まだ橋下氏が塾長だったころの維新政治塾の1期生で、今や人気者の吉村洋文大阪府知事の信頼も厚く、維新の馬場伸幸共同代表は「党を挙げて応援する」と語った。

2019年参院選で、維新として初めて東京選挙区に議席を得た音喜多駿氏(右)と比例代表で初当選した柳ヶ瀬裕文氏(2019年7月撮影)
2019年参院選で、維新として初めて東京選挙区に議席を得た音喜多駿氏(右)と比例代表で初当選した柳ヶ瀬裕文氏(2019年7月撮影)

東京ではの維新のメンバーが「東京維新の会」として活動してきたが、大阪に比べると、苦杯をなめ続けてきた。参院選では2013年、2016年と東京で著名人候補を擁立したが議席に届かず、2017年衆院選では当初、都内の選挙区に候補者を擁立する手はずが、小池百合子都知事が設立した希望の党と維新の選挙協力のあおりで比例代表に押し出され、落選の憂き目にあったこともある。

ただ、維新関係者は「今回は違う」と鼻息が荒い。躍進した昨年の衆院選以降の勢いという「環境の変化」を理由にあげる。

東京選挙区に出馬する海老沢氏は、過去、東京都議選に2度、衆院選(茨城1区)に1度、維新から出馬したがいずれも落選。2019年大阪市議選で党の指令を受けて出馬し当選。現在1期目だが、任期半ばで再び東京の選挙に出戻る形になる。

過去2度落選した東京で、再び選挙に臨む感想を海老沢氏に聞くと「過去に東京で戦った時期は今より、大阪でも維新の改革が浸透していなかった。(今は)大阪での維新への期待感に、少しずつ(都民が)気づき始めているのではないか」と述べた上で「私が昔戦ったころより、今回は戦いやすいと思う」と話した。党の支援体制もこれまでより強化されるのは間違いない。

とはいえ、東京選挙区は、自民、立憲民主、公明、共産の主要政党に加え、小池都知事が支援するファーストの会、れいわ新選組など新興勢力も、6人の枠を目指して候補をたててくる、大激戦区だ。維新は「しがらみのなさ」が売りだが、裏返せば組織力の弱さでもある。また、党を取り巻く環境の変化や期待感だけで勝ち抜けるほど現実は甘くないことも、織り込み済みだろう。

一方、馬場共同代表は、躍進した昨年の衆院選で、維新が東京で獲得した比例票が85万票あまりあったことをあげ「この票を今回の参院選に当てはめると(海老沢氏は)当選圏内に入る」とも語った。近年の東京選挙区では、当選者の票数は50、60万票台~110万票台だ。

昨年秋の衆院選で一気に勢力を伸ばした日本維新の会として、東京での議席増の機会となるのか。「東京維新」にとっても、新たなターニングポイントとなる参院選。吉村知事ら幹部も総動員で臨む、東京決戦になりそうだ。【中山知子】