昨年の衆院選を前に街頭演説するれいわ新選組の山本太郎代表(2021年10月8日撮影)
昨年の衆院選を前に街頭演説するれいわ新選組の山本太郎代表(2021年10月8日撮影)

れいわ新選組の山本太郎代表が表明した衆院議員辞職と、夏の参院選へのくら替え出馬の真意をめぐっては、今も永田町に臆測を呼んでいる。山本氏は辞職の経緯を、参院選で自民党が大負けすることはないとの見立てを示し、その後に生じる次の衆院選までの「選挙空白期間」を見越して「空気を読まない私たちが(参議院での)議席を増やし、声を大きくしていく必要がある」と述べ、首相や閣僚と対峙(たいじ)できる予算委員会で党の議席獲得を目指すことを1つの理由にあげた。予算委で質問の機会が得られないことへのいら立ちもにじませたが、ただ、有権者の投票で得た議席というものは、どんな場合でも重い。山本氏は「(比例当選の)自分が辞めても党の議席は失われない」と訴えたが、「個利個略」「党利党略」といわれても仕方ないのが現状だ。

参院議員1期目の2019年4月、「れいわ」を旗揚げした山本氏。当初「泡沫(ほうまつ)」といわれながら、じわじわ支持を広げてブームを起こし、約3カ月後の参院選で比例2議席を獲得した。れいわの選挙に向けた情勢分析や戦略はかなり緻密なことで知られ、山本氏は落選したものの自身の当選も視野にあった。その2年後、昨年の衆院選比例東京ブロックで自身が議席を得ながら、今回の事態だ。

「参院選の候補者集めが順調ではなく、自分が動かざるを得なかったのではないか」との声も聞く。れいわは、山本氏が「唯一無二の象徴」(野党関係者)の政党だが、衆議院の議席を投げうち、参議院で議席を得ようとする例のない「変則的な二刀流」(同)が通用するかどうかは、まだ見通せない。

山本氏は、比例代表ではなく選挙区への出馬を明言した。選挙区内の有権者に浸透する一定の時間が必要なことを考えると、残された時間は少ない。さて、どこなのか。選挙事情に詳しい永田町関係者を取材すると、共通していたのが、神奈川選挙区だ。今回限りの複雑な「からくり」を抱えていることが背景にある。

神奈川選挙区は今回、異例の制度下で行われる。通常の改選人数は4人だが、今回は2019年の参院選で当選した松沢成文氏が任期中に失職し生じた欠員1を合わせた、改選4+欠員1の「合併選挙」となる。改選4人の任期は6年だが、欠員1人は半分の3年。「日本一複雑な合併選挙。4位と5位は、雲泥の差」(自民党の小泉進次郎県連会長)というくらい、当選順位で任期も異なる「天国と地獄」。主要政党の候補者らは、上位4人に食い込むためにすでに選挙活動を活発化させている。

ただ、この制度が、山本氏にとっては都合がいいのではないかというのだ。

山本氏は4月15日の会見で、参院選で自民が勝てば、衆院議員の任期満了(2025年10月21日)まで3年以上あることから今後3年間は、衆院選が見込まれない可能性に言及。実際、与党が参院選に勝利すれば、与党にとって「黄金の3年」が訪れるといわれる。

山本氏にとっては、参院選に自分が出て議席を獲得できれば、今後3年の間に再び勢力拡大への準備を整えることができる。しかも主要政党の候補が居並ぶ神奈川選挙区だけに、上位4位に入れなくても、もし5位に滑り込めた場合、参院議員の任期満了は2025年夏。「黄金の3年」を当てはめると、自身の任期満了と次期衆院選のタイミングが近くなる可能性もある。そうなれば、2025年参院選に再び出馬するか、次期衆院選に再びくら替え出馬するか、制度的には選択肢ができるため、再度、衆院議員を目指せる余地も残る。そんな見立てだ。

ただ、これは5位に滑り込んだ場合の話。神奈川選挙区も全国有数の激戦区なので、都合よく5位で当選できるのか含めて、見通せないのも確かだ。

また、衆院議員になりながら辞職して参院議員を目指し、もし当選しても政治状況次第で、また衆院議員を目指す…というのは、腰を据えて政治活動に取り組むというよりは、「選挙パフォーマンス」でしかない。戦略通りにことが進めばいいが、そうならなければ選挙の勝敗で自身や政党の体力を消耗することの繰り返しにもなりかねない。

今年の参院選では、山本太郎氏のこのような街頭演説風景がどの場所で展開されるのか(2019年8月1日撮影)
今年の参院選では、山本太郎氏のこのような街頭演説風景がどの場所で展開されるのか(2019年8月1日撮影)

前回の参院選落選後、山本氏を取材すると「自分に足りないのは、経験」と話していた。議場での投票時の絶叫などの行動があっても、「突拍子もないようでいて、実は現実的な人」と評価する与党議員もいた。ただ、いくら現実的であっても、ゲリラのような戦術で議席を得られるほど、選挙は甘くない。

最終的には、選挙区を断念し幅広く票を集められる比例代表に出馬するとの見方も消えない。神奈川選挙区以外にも、出身地の兵庫なども「参戦先」に浮上している。山本氏はまだ、今後の計画について明かさないが、大型連休が明けたら、6月22日とされる参院選公示まで1カ月半あまり。決断の時期が迫っている。【中山知子】