岸田文雄首相(2022年9月撮影)
岸田文雄首相(2022年9月撮影)

「負の連鎖」というワードが、時の政権にのしかかる。旧統一教会との関係や失言、政治資金をめぐる問題で山際大志郎、葉梨康弘、寺田稔の各氏が、この1カ月の間に立て続けに大臣の職を追われた。

これまで数々の政権をピンチに陥れ、時に首相の退陣にも発展した「ドミノ辞任」だが、約30年、永田町をウオッチしてきて、1カ月の間に3人の閣僚がドミノで辞めた政権は、記憶にない。今、日本中がサッカーW杯初戦の森保ジャパンのドイツ撃破で持ちきりだが、「岸田ジャパン」は永田町でオウンゴール3発。さらなる連発も予想される。

もともと「政治とカネ」の問題が指摘された閣僚は、山際氏と寺田氏に加えて、今再び、更迭の可能性が高まる秋葉賢也復興相だった。しかし山際氏が辞任後、葉梨氏の失言問題が飛び出し、寺田氏の問題も大きくなるうちに、秋葉氏の問題は他閣僚の影に隠れるような形になっていた。寺田氏は11月20日に更迭。そうなれば再び秋葉氏にスポットライトが当たるのは分かっていたはずだが、この間、事実上“放置”された形に。自民党の人に話を聞くと、多くが「寺田氏が辞めたら秋葉大臣が標的になる」と話していたのに、今では新たな公選法違反疑惑や旧統一教会との接点の問題も出て、「手の付けられないような状況」(関係者)になっている。

秋葉氏は11月25日の衆院予算委員会で、想定通り野党の集中攻撃を浴びた。その場で、野党に抗議する場面があった。昨年の衆院選中、次男が候補者以外つけることが認められない候補者名入りのたすきをつけて「影武者」として街頭に立ったのは公選法違反ではないかと指摘された際、立憲民主党の大西健介氏が、次男とみられる人物が写った写真の紙を掲げた時だ。NHKで中継されており、多くの人の目に触れることを懸念したようで「こうしたテレビの時にふさわしいものではない」「掲示をしないということを含めて聞いていた。ひとこと抗議をしないと思い発言をさせていただいた」と述べた。

秋葉賢也復興相(2022年11月撮影)
秋葉賢也復興相(2022年11月撮影)

質問者ではなく、「外野」からのやじにも反応した。「問題が多いからだ」の声には「いち民間人が映っているから申し上げた」と身内をかばうような言葉もあったが、野党議員から「自分が批判されている問題の本質を理解しているのか」とあきれた声も聞いた。

秋葉氏は答弁の中で、自身が初当選した2005年衆院宮城2区の補欠選挙は、公選法違反による連座制の適用で、当時の民主党議員が辞職したのに伴うものだったことに言及。「法の順守やクリーン選挙には人一倍気をつけて活動してきた。疑念が生じたことは誠に残念。原点に立ち戻りたい」と強調した。

当時、連座制で辞職したのは、昨年の衆院選で17年ぶりに国政に復帰した立憲民主党の鎌田さゆり氏だ。連座制で宮城2区での立候補が5年間禁止された後、国政選挙や首長選の落選などを経て、昨年の衆院選で秋葉氏と対決。わずか571票差で小選挙区を勝ち、秋葉氏は比例復活当選となった。今回の「影武者」問題は、鎌田氏との戦いの熾烈(しれつ)さを物語るが、だからこそ疑惑の目が向けられた問題には、きちんとした説明がなければならない。

秋葉氏はこれまで「丁寧に説明させていただいている」と繰り返しているが「口調は丁寧だが、答弁の中身が丁寧なわけではない」と、野党関係者は語る。岸田首相は25日も説明責任を果たしてほしいとして野党の更迭要求をはねのけたが、これまで更迭した3人の閣僚と同様、目の前で説明内容を聞いているだけに、きちんとした説明かそうでないかを判断できる立場にある。しかし、これまでの3人は、いずれも「野党から更迭要求」とか「自民党内でも辞任論」などの動きが出た後の判断。今回も同じような流れをたどっている。周りに言われる前になぜ判断しないのだろう。

サッカー日本代表はドイツ戦で、前半から戦術(布陣)が変わった後半の2得点で逆転勝ちした。前半先制され、追い込まれた森保監督が戦術を変え、交代で送り出した選手の得点もあり、勝利につながったことが話題になった。岸田首相は、問題閣僚を抱えて辞めさせるタイミングが遅い。こちらはずーっと、同じ戦術だ。サッカーとは対照的に、チーム(政権)の足を引っ張る選手(閣僚)の存在も、チームをどんどん追い詰めている。

11月28日、29日と衆院予算委員会で再び質疑が予定され、秋葉氏が辞めていなければ、同様に秋葉氏への追及が続く。また寺田氏の後任に就任したばかりの松本剛明総務相にも、政治資金パーティーのパーティー券販売をめぐる疑惑が発覚した。追い詰められても追い詰められても、岸田政権では何度も同じ光景が繰り返され、それがオウンゴールにつながっている。【中山知子】