立憲民主党の泉健太代表が、いつ行われるか分からない次期衆院選の獲得議席をめぐり、150議席をとれなければ辞任すると自身の進退に言及し、賛否を呼んでいる。政治の世界では、トップが進退に言及した段階で求心力に影響する場合もあり、「衆院選の時期が確定していない今の時期になぜ」と、表明の判断に党内では困惑の声があると聞いた。

泉氏は、党を立ち上げた初代代表の枝野幸男氏が21年10月の衆院選で議席数を落とし、引責辞任したことで代表に就任した。就任後、初めての国政選挙となった昨年の参院選で党勢を拡大できず、今年4月の衆参補選では与野党対決の選挙区で1議席も獲得できなかった。勢いを増す日本維新の会と対照的に、勢いが伸びないままの現状を踏まえて、退路を断ち、代表としての覚悟を示したとして評価する声もあるが、置かれた現状を考えるとやはり唐突な印象は否めない。

新しい「選挙の顔」として代表に就任した後も、なかなか党勢拡大に至らない泉氏には、「経験不足」「アピール不足」など、ネガティブな声がつきまとった。たまに繰り出すオヤジギャグが炎上(日本維新の会の馬場伸幸代表の名前をめぐり「重馬場(おもばば)であってほしい」と言及し、維新側が反発)したこともある。代表経験は、今回が初めて。立民政調会長のほか、以前属した国民民主党などでも国対委員長や政調会長を務めたが、党運営の仕切り役でもある幹事長などの経験はない。切った張ったの生々しい政界の動きに大きく関わってきていない部分が、経験不足という評価につながるのではないかと、以前、立民の関係者に聞いたこともある。

一方で、立民の前身に当たる民主党時代は、一部の主要議員による代表や幹事長など重要ポストのたらい回しが続いて批判を浴び、「人材不足」も指摘された。そんな経緯を経て泉氏が代表になった後は、女性幹事長の起用など新たな試みも生まれたが、党勢拡大にはなかなか結びつかない。結局、昨年の参院選後に泉氏以外の党幹部を一新した際には、民主党や民進党の代表を務めた岡田克也氏や野田政権の財務相だった安住淳氏らベテランを幹部に登用。安定飛行をはかった経緯がある。

それでもなかなか上昇できない中で、今回の「150議席以下なら辞任」発言が出た。これが吉と出るか凶と出るかはまだ見通せないが、泉氏はある「成功体験」を見通して発言したのではないか、という声を聞いた。それは、今勢いを増し、野党第1党の立民の立場を脅かしている維新の馬場代表のかつての発言だ。

馬場氏は、維新が躍進した今年4月の統一地方選をめぐり、当時の党所属地方議員の数(約400人)の約1・5倍に当たる600人以上まで増やせなかったら、責任を取って代表を辞任する意向を、昨年夏の段階で表明。議席の大幅増へ退路を断ち、自身の覚悟を示した。当時は懐疑的な見方もあったが、結果的に維新は統一地方選で議席を774人まで増やし、目標を達成するとともにさらに勢いを増した。取材した政界関係者は「維新にできて、立民にできないことはない、という思いが、泉代表にはあるのではないか。ただ地方議員の議席を増やすのと、衆院選で議席を増やすのは意味が違う。衆院選での大幅な議席増は、格段に難しい」と話す。

野党第1党を争うまでになった維新の躍進ぶりが、もし泉氏の闘争心に火を付けたとするなら、なんとなく理解できる部分はある。ただ、現段階の立民の党勢では、現有の97議席から「150議席」達成には疑問符も付く。党内には、「ポスト泉」をめぐる動きも見え隠れしていると聞く。

以前、立民の関係者に「もし泉健太が辞めるようなことになれば、党は立ち直れない。引きずり下ろそうとするならなおさらだ」という危機感を聞いたことがある。今回、その泉氏が自ら、自身の進退に言及する形となった。維新のような「成功体験」のきっかけになるのか、それとも、旧民主党時代から幾度となく起きてきた党内混乱の引き金になるのか。野党第1党の揺れはしばらく続きそうだ【中山知子】