コロナ禍で苦戦した外食各店にも活気が戻ってきた。取材でさまざまな店に現状を聞くと、「感染者再拡大で安心できないが、最近の客数は回復した」という声が多い。

6月2日、千葉県市川市にオープンした「焼肉きんぐ 市川鬼高店」(写真=物語コーポレーション)
6月2日、千葉県市川市にオープンした「焼肉きんぐ 市川鬼高店」(写真=物語コーポレーション)

なかには、コロナ直撃が関係ないかのように伸びたブランドもある。「焼肉きんぐ」(運営会社:物語コーポレーション)だ。主に郊外型店として成長を続け、国内店舗数は286店となった(2022年6月末現在)。

このブランド名でスタートしたのは2007年3月。1号店は石川県野々市市(ののいちし)「焼肉きんぐ 御経塚店」だった。それ以来、15年で286店に拡大したのだ。

2007年頃の「焼肉きんぐ 御経塚店」(写真=物語コーポレーション)
2007年頃の「焼肉きんぐ 御経塚店」(写真=物語コーポレーション)

人気の秘密は何か。同社の責任者に聞き、現在の消費者意識も考えてみた。


■コロナ前、2019年の業績を上回った

「『焼肉きんぐ』は依然として好調です。特に今年4月からは来店客が一段と増えており、コロナ前だった2019年の業績を上回っています」

焼き肉事業を統括する山口学さん(物語コーポレーション 執行役員 焼肉事業部 事業部長)はこう説明する。山口さんは事業部歴約12年、事業の店舗拡大を進めてきた。

4月以降の伸びは、新規感染対策として実施されていた各種の制限が解除されたのが大きい。競合のレストランからも「久しぶりに解放感のあるゴールデンウイーク(GW)となり、店には次々に来店客が押し寄せた」という声を聞いてきた。

焼き肉店は、コロナ禍でも勝ち組といわれた業態だ。「料理を網で焼くので、以前から店内の換気に力を入れていた」「郊外型や住宅街に近い店も多く、在宅勤務で通勤減の影響も受けにくかった」などが挙げられる。だが、最近は苦戦する事例も紹介されてきた。

なぜ「焼肉きんぐ」はここまで好調なのか。

春のメディア説明会で披露されたメニュー(2022年3月、筆者撮影。現在は販売されていないメニューもあります)
春のメディア説明会で披露されたメニュー(2022年3月、筆者撮影。現在は販売されていないメニューもあります)

「お客さまにご支持いただける理由は、いくつかあると思います。まずは手頃な価格です。合計金額を心配せずに注文でき、小さなお子さん連れのファミリーなら、家族4人(大人2人、小学生2人)で1万円以内ですみます」(山口さん)

楽しく食事をしても、予算オーバーになると気持ちが落ち込む。一般的な焼き肉店でいろいろ注文し、支払いの際「結構かかったな」と感じた人は多いのではないか。

同店は基本的に食べ放題専門店だ。3つの食べ放題コース「58品コース=税込み2948円」「きんぐコース=同3278円」「プレミアムコース=同4378円」があり、小学生は半額、幼児は無料。一番人気の「きんぐコース」を大人2人+小学生2人で頼めば「9834円」となる。アラカルトもあるが、来店客の多くが食べ放題を注文する。

「また、全商品を座席まで運ぶ『テーブルオーダーバイキング形式』にしています。食事、飲み物、網交換などをタッチパネルで頼めば、席でお待ちいただけます」(同)

焼肉事業部長の山口学さん(写真=物語コーポレーション、撮影のためマスクを外しています)
焼肉事業部長の山口学さん(写真=物語コーポレーション、撮影のためマスクを外しています)

食べ放題の店の中には、自分で飲食を取りに行くケースが多い。目の前で料理を選ぶ楽しみはあるが、何度も足を運ぶのは面倒に思う人もいる。家族連れの場合、多くは母親の役目になりがちだ。座席まで運んでくれるのは好評で、それもあってか女性客が過半数を占めるという。タッチパネルで頼め、店員をいちいち呼び止めなくてすむのも気がラクだろう。


■食べ放題「制限時間100分」への対応

「きんぐコース3278円(税込み)」を選んだ場合、肉料理なら、きんぐカルビ、炙(あぶ)りすき焼カルビ、上ハラミステーキ、ロース、タンなどが注文できる。これ以外にキムチ、サラダ、ごはん・麺、スープ、デザートなども制限時間内に頼める。なお、ドリンクは別料金だ。

「【名物】きんぐカルビ」(左)と「【名物】花咲上ロース~ガリバタ醤油~」(写真=物語コーポレーション)
「【名物】きんぐカルビ」(左)と「【名物】花咲上ロース~ガリバタ醤油~」(写真=物語コーポレーション)

「注文から提供までお待たせしない対応もしています。制限時間100分の時間制限がある食べ放題は、お客さまも飲食の提供まで時間がかかるとストレスを感じます。そうさせない工夫が、適切な人員配置と配膳ロボット『みーと』(ソフトバンクロボティクス社製)の活用で、迅速に提供できるようになりました」(同)

こうして提供までの時間短縮を進めてきたが、最近は一段と来店客も多い。

東京都世田谷区の「焼肉きんぐ 駒沢公園店」(筆者撮影)
東京都世田谷区の「焼肉きんぐ 駒沢公園店」(筆者撮影)

例えば、東京都内にある「焼肉きんぐ 駒沢公園店」(世田谷区)は1階から3階まで客席がある大型店だが、6月の土曜日夕方に順番受付状況を見たところ「ただいまの待ち:79組」となっていた。

早めに食事をして、遅くならないうちに切り上げたいのは最近の傾向だ。同店も21時を過ぎると来店客が落ち着くといい、別の日の同時刻に受付状況を見ると「ただいまの待ち:3組」だった。ピーク時の接客対応は今後の課題だろう。


■焼き加減を見回る「焼肉ポリス」もいる

ここまでの成長を支えてきたのが、前述した「お客の不満解消型」ともいえる手法だ。特にユニークなのが、「焼肉ポリス」の存在。店内を見回り、焼き方を指導する。

「せっかくの肉も、例えば会話に夢中になって焦がしたりすることもあります。そこで焼肉ポリスが“おせっかい"をすることで、お客さまに肉をおいしい状態で食べていただき、食事時間を楽しんでいただきたいのです。『この食材はどの程度焼けばおいしいか?』などのご質問にもお答えしています」(同)

各店舗には焼き具合を監視する「焼肉ポリス」がいる(写真=物語コーポレーション)
各店舗には焼き具合を監視する「焼肉ポリス」がいる(写真=物語コーポレーション)

2016年頃から進めたものに「減卓」と呼ぶ、テーブル数を適正化した取り組みがある。厨房の生産能力を超える来店客で混み合うと、注文からメニュー提供まで時間がかかり、お客はストレスを感じる。また座席の間が狭いと、落ち着いて食事もできない。

それを防ぐため新店や店舗改装の際に見直してきた。これがコロナ禍で座席と座席の空間、間仕切りなどが評価され、一段と人気が高まった(図表参照)。

■夏の限定メニューでは「冷麺」も人気

多彩なメニューが人気の同店だが、新鮮味を打ち出す工夫も行う。例えば春夏秋冬で実施する限定メニューだ。6月22日(水)から8月下旬までの予定で「焼肉は自由だ! 夏焼肉編」を開催している。

肉以外の注目商品は冷麺。「ひとくち冷麺」(税込み319円)、「レモン冷麺」「和風冷麺」「ピリ辛担々冷麺」(いずれも同429円)の4種類で訴求する。前述した「きんぐコース」「プレミアムコース」を注文すれば、各料金内で頼むことができる。

「4種類の中で一番人気はピリ辛担々冷麺で、これを目当てに来店される方もおられます。肉料理では『【三元豚】壺漬けすだれカルビ』も用意しました。韓国風の味つけが好評です」

若い世代を中心に激辛ブームが続くが、「あくまでファミリー層が中心なので、基本は万人受けの味つけ。極端に辛い味は商品設計として考えていません」と語る。

夏の限定メニューで提供する4種類の冷麺(写真=物語コーポレーション)
夏の限定メニューで提供する4種類の冷麺(写真=物語コーポレーション)

毎回、変化球商品もある。夏の限定メニューでは、「しあわせバタ~味ポテト」「ミニチョコチュロ」(ともに319円)のスナック系も用意した。これも客層を意識したのだろう。


■今後の課題は「原材料の高騰」と「人材の確保」

成長が続く「焼肉きんぐ」だが、今後の課題は何か。

「原材料の高騰と人材の確保です。当店は輸入牛肉と国産牛肉を提供していますが、なかでも輸入牛肉の価格は高騰したままです。今後もお客さまの満足に応えるためには、一定品質の肉の調達は欠かせません。

また、店舗拡大や安定運営を支えるには、優秀なアルバイト、パートさんの確保や定着も不可欠になります」(山口さん)

手頃な価格でも一定の基準を維持してきた同店にとって、品質の維持は欠かせない。

今後どう動くかは、まだわからないが、現時点では消費者意識にも変化が出ていた。

「1組当たりの人数は減っています。以前は大人数でのご利用も目立ちましたが、現在は家族やごく親しい人と来店されるケースが多いですね。一方でプレミアムコースの注文数が増えるなど、外食の特別感が増しているように感じます」

都内に店舗数が少ない現状など、出店計画についても聞いてみた。

「都内に限らず、首都圏と関西圏の出店には力を入れていきたいです。地場の個人店が強い大阪では当初苦戦しましたが、近年は受け入れられるようになり、客足も増えました。『地域一番店主義』も掲げ、1店当たりの売り上げを伸ばしつつ、出店計画を立てています」

「この業態で拡大できる適正規模は約400店」という声も聞く。急拡大した同店だが、最近の店舗拡大は抑え気味だ。顧客満足と向き合いながら進めていくのだろう。

【高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント】