世界3大テノールといわれるホセ・カレーラス(スペイン=68)が、変わらぬ美声を披露した。世界芸術文化振興会主催の「第3回東京国際コンサート」が15日、東京・新国立劇場オペラパレスで行われ約1700が詰めかけた。スペシャルゲストのカレーラス、主催者の深見東州会長、ニュージーランド出身のオペラ歌手、コナル・コードが計30曲を一気に歌い上げ、聴衆は世界の歌声に酔いしれた。

深見氏とコード競演1時間

 第1部は深見氏とコードが盛り上げた。コードはキリ・テ・カナワ(ソプラノ)を迎えた第1回(13年)、歴代随一のソプラノと称されたルネ・フレミングが出演した、昨年の第2回にも登場している常連さん。深見氏との息はぴったりと合っている。

 オープニング曲はヘンデル作曲の歌劇セルセから「オンブラ・マイ・フ」で、深見氏が先陣を切った。黒のタキシードがビシっと決まっている。早くもパワー全開で、テンションが高い。次はコードがモーツァルト作曲の『歌劇後宮からの誘拐』から「かわいい娘を見つけた者は」を表情たっぷりに歌った。

 コードは明るい性格で、表情も豊か。舞台に登場し、歌い終わるまですっかり劇中の役者になり切っている。深見氏はあらゆるジャンルのコンサートを数多く開催しているが、この催しはオペラの楽しさをより多くの人に知ってもらおうというのが狙い。今回は2人で交互に歌ってゆく。

 3曲目は深見氏でヴェルディ作曲の歌劇『ナブッコ』から「ユダヤの神よ」。客席から深見氏の本名である「半田!」の掛け声が飛ぶ。コードは4曲目に小道具を手に、歌劇『ドンジョバンニ』から「カタログの歌」を披露。ユーモラスな演技に「ブラボー!」と称賛の声が。

 いつものコンサートだと深見氏のユーモアたっぷりの話が楽しみの1つになっているが、この日はトークなしで立て続けに歌を披露した。8曲目にはコードが、ジョージ・ガーシュイン作曲のオペラ「ポギーとベス」から「くたびれもうけ」を熱唱。弾むような足取りで登場したり大きなアクション、豊かな表情でもり立てた。

 深見氏はこれとは対照的に9、10曲目には日本の歌をしっとり聞かせた。石川啄木作詞の「初恋」、竹久夢二作詞の「宵待草」で、聴衆を惹きつける。さらに終盤では「サンタ・ルチア」「オー・ソレ・ミオ」と誰でも知っているナポリ民謡を聞かせた。

 深見氏が8曲、コードが6曲の計14曲を歌った後は、「ふるさと」を仲良く歌った。1番を深見氏が歌い、2・3番は合唱した。互いに気心が知れているので、見事なハーモニー。最後は深見氏が「ダニーボーイ」で締めくくり、約1時間の競演を終えた。

カレーラス45分の夢舞台

 第2部はカレーラスの登場だ。来日は昨年の9月以来。プラシド・ドミンゴ、故ルチアーノ・パバロッティ-と並び世界3大テノールとして知られる。聴衆もスタッフも明らかに緊張している。開演以降の出入りは禁止で、ホワイエで鑑賞してほしいとのアナウンスがされた。

 ピアニストのロレンツォ・バヴァイとともに舞台に登場すると、割れんばかりの拍手。おもむろにハンカチで口や顔を拭うと、右手をピアノについてスタンバイOK。どちらかというと小柄だが、その姿が何とも様になっている。体から発するオーラが半端ではない。

 1曲目はマリオ・コスタ作曲の「5月だった」、続いてフランチェスコ・トスティ作曲の「夢」を披露。声量たっぷりで、声が場内に響き渡る。大きなアクションはなく、両手を広げたり、こぶしを握ったり、あるときは両手で宝物を押し頂くようなしぐさをする。表現方法はほとんどが手によるもの。地味ではあるが、苦み走った表情が大人の男の色気を感じさせる。

 1度舞台のそでに下がって、再登場。またまた拍手の嵐に包まれる。ガエターノ・ラーマ作曲の「静けさに歌う」、デレウィトスキー作曲の「まごごろのセレナード」、エルネスト・タリアフェッリ作曲の「プジレコの漁夫」を続けて3曲。笑顔を浮かべて再び退場。

 後半の5曲はさらに盛り上がる。メリハリのある歌い方で、聴衆を引き込んでいく。7曲目のグリーグ作曲「我君を愛す」、8曲目のレンディネ作曲「ヴリーア」、9曲目のデスポジト作曲「太陽に酔って」、そして10曲目のヴァレンテ作曲の「情熱」でその興奮が最高潮に達した。歌い終わると、拍手がいつまでも続いた。そんな中、超VIPは小さく何度もうなずき、控えめな笑顔を浮かべながら退場した。約45分の夢の舞台は終わった。

新国立劇場オペラパレスは「アンコール総立ち」

 1部と2部が終わった後、3人がそろって舞台に登場した。万雷の拍手を浴びていったん引き揚げるが、「アンコール」の声がやまない。3人が再度登場すると場内は総立ちだ。カレーラスをはさんで左に深見氏、右にコードが並ぶ。

 1曲目は「川の流れのように」。深見氏が2小節まで歌うと、カレーラスに引き継ぎ、最後は三重唱。それにしてもカレーラスとコードの日本語のうまいこと。2番も3人で歌った。2曲目は「Some Enchanted Evening」。これも好評で拍手が鳴りやまなかった。

 続いてはカレーラスが「カタリ・カタリ」。リクエストにこたえてさらにもう1曲。感情を込めて「冬」を歌い上げた。ピアノのバヴァイと握手をして、会場全体を見回した。最後は再び3人がそろい、手をつないで客席に一礼。カレーラス、コード、深見氏の順で、名残惜しそうに舞台をあとにした。

<深見氏プロフィル>
 ◆深見東州(ふかみ・とうしゅう)本名・半田晴久。1951年(昭26)3月18日、兵庫県西宮市生まれ。同志社大、武蔵野音大特修科声楽専攻科卒オペラ歌手として日本屈指の実力派といわれる。豪州の音大でMA修得。能楽師、学者、実業家、社会福祉活動家としてもマルチな活躍をしている。