それにしても、ケイジの声や振る舞いは独特だという。「ケイジはお客さんが大好きで、多いとテンションが上がる。舌を出すのも、喜んでもらえると条件反射で分かっている。見られることをストレスとは感じていない」(君島さん)。人がいない休園日には、鳴かないこともあるそうだ。地元では以前から話題だったが、今やすっかり全国区の人気者。園内の土産物店では急きょ、バーコードにかざすとあの叫びが聞けるポストカード(1枚250円)の販売も始まった。

 フクロテナガザルは、自然環境などの変化で絶滅危惧種に指定され、獣舎にも説明書きがある。ケイジの声を聞くことで、「危機にひんした状況も知っていただける」(同園)。ケイジの声は、仲間の苦境に目を向けてもらうための叫びでもあった。【中山知子】

 ◆フクロテナガザル テナガザル科に属し、マレー半島やインドネシア・スマトラ島の森林地帯に生息。同科では最大の大きさで、体長は75~90センチ。平均して約40年生きる。主に木の実や木の葉など植物質を食べるが、小鳥や小動物も好む。雄が持つ大きな「のど袋」は、名前の由来にもなっている。英名は「シャーマン(Siamang)」。

 ◆ケイジ&マツ 1988年(昭63)、一緒に東山動植物園に来て以来、約30年来のパートナー。「鳴き合い」の相性が抜群のおしどり夫婦。名前は、戦国時代を描いた人気漫画「花の慶次」に登場する前田慶次と、まつから取られた。オレンジやサツマイモ、キュウリやリンゴを食べ、パンやピーナツなどがおやつ。鳴き声が健康のバロメーターでもあるという。