地下鉄、松本両サリン事件などオウム真理教による事件に関わったとして、殺人などの罪に問われ、死刑が確定した教団元幹部ら6人の刑が26日、執行された。今月6日、松本智津夫元死刑囚(教祖名麻原彰晃)を含む7人の刑が執行されたばかり。教団に関する事件で死刑が確定した13人全員の執行が異例の速さで終わり、平成を代表する未曽有の凶行となった事件は、大きな節目を迎えた。上川陽子法相が2度の法相在任中に命じた執行は計16人となり、現行制度では最多。

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 オウムのために、またも命が失われ、それを悲しむ家族が出た。そのことに暗然たる思いでいる。

 執行された6人は、事件の被害者や社会にとっては、許されざる罪人だが、同時に、麻原彰晃こと松本智津夫によって心を支配され、手足のように使われた者たちだった。その麻原が執行されて20日後の執行という素早さに驚く。

 法務省としては、一連の事件で死刑判決を受けた者を短期間に執行することが公平な対応だと考え、最初から今月中に全員を執行するつもりだったのだろう。しかし、首謀者であり、自分を信じて付き従った弟子たちを人殺しにした麻原と、事件の実行犯として使われた者では、その責任の大きさは天と地ほども違う。

 また弟子たちは、未曽有のテロ事件を引き起こしたカルトの内情や、そこに人が引き込まれていくプロセスについて語れる生き証人でもあった。オウムと出会う前は、人生の意味について考え込むようなまじめな青年だった人たちである。オウムのマインドコントロールから解放された後、自らがなしたことを深く悔い、経験を裁判で詳しく語ったり、若い人たちがカルトから身を守るための手記を書くなどした者もいる。

 そんな彼らから、心理学や宗教学の専門家が十分にヒアリングを行うなど、刑事裁判とは異なるアプローチの研究を行っていれば、今後のカルト対策やテロ対策のために重要な資料になっただろう。実際、カルト問題の研究者が、面会調査の申し入れをしていたのに、法務省はそれを無視した。

 結局、この国は、社会に衝撃を与え、多くの被害を出したオウムの問題を、刑事事件として処理するだけで終わらせてしまったのだ。落胆を禁じ得ない。

 しかし、オウムの後継団体は、依然として麻原を崇拝し、事実と向き合わぬまま、勧誘活動を続けている。一連の事件はオウムの犯罪ではなかったかのようなデマや陰謀論も出回り始めている。ほかにもカルト性の高い集団が現れて、悲劇が繰り返される心配もある。本当は、オウム問題は、終わったわけではない。

 学校でカルト予防の授業を行う。すべてのオウム事件の裁判記録を永久保存し、必要に応じてアクセスできるようにする。そのほか事件の事実と教訓を次に伝える努力は、生き証人なき時代にはなお一層必要だ。(ジャーナリスト)