シカやイノシシなど、狩猟として捕獲され、食材となるジビエが注目を浴びている。山梨県富士河口湖町にある「星のや富士」では宿泊客を対象に、「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」を開催している。山の中に入り、わなにかかった獲物がさばかれる工程を見学、体験し、昼食でジビエ料理も口にする。また、地方自治体でも農作物の被害防止や、ヘルシー食材振興として推奨する動きがある。秋の狩猟シーズン、「地元の美味なる恵み」に感謝だ。

オスジカの右前脚にわながかかっていた。星のや富士から車で30分ほど走った、本栖湖周辺の山林。車道からわずか300メートルほど入った場所に、獲物はいた。

狩猟免許を持った地元在住のインストラクター古屋永輔さん(41)が、手早くナイフで頭部をたたいて脳振とうさせ、急所を刺して血を抜く。さらに解体してモモや背ロース、内ロースなど必要な部位を、40分足らずで切り取った。

現場に入れば、水たまりの近くに足跡があったり、木にツノをこすり付けた痕跡もある。わなは、シカが通りそうな道に埋め込み、近くに木の枝などを置いて偽装する。

この「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」、昨年から始まった。15年の開業以来、シカやイノシシなどの狩猟肉であるジビエを料理として提供している。地元富士五湖周辺で40年、ハンターとして活躍し、富士河口湖町の「ジビエ食肉加工施設」の所長も務める滝口雅博さん(65)や、古屋さんの協力を得て、メニューを開発した。

山梨県だけではなく、全国的な傾向として、これらの鳥獣が農業や林業への被害を及ぼしている。その捕獲と、消費の普及促進、何よりも「命をいただくことの重み」と、食材への変化する自然の恵みへの感謝が、背景にある。

アウトドア派や、決まり切った観光とは違う体験ツアーを求める人に受け、昨年は9回開催。今年は12月14日まで毎週水、金曜の計22回予定している。

ジビエといえば、「くさい」とか「硬い」といった先入観がありがち。「正しく下処理をすれば、おいしく食べられる」と滝口さんは強調する。しかも、高タンパク低脂肪なので、ヘルシーだ。

狩猟を終えると、滋味と野趣あふれるイノシシのモツ煮込みやチャーシュー、シカのたたきや竜田揚げ、シカのモモ肉の串焼きなどが昼食に出た。文字通り、尊い食材をかみしめていただいた。【赤塚辰浩】

◆ジビエ フランス語でGibierと表記。シカ、イノシシ、野ウサギ、キジなどの野生鳥獣を狩猟で捕獲し、食肉となる。フランス料理で受け継がれてきた。日本でも、イノシシやクマを食べる地域はある。