最大1億円を超える役員報酬額の提示を一方的に撤回されたとして、経産省と対立していた官民ファンド、産業革新投資機構の田中正明社長(65)は10日、都内で会見し、自身を含めた民間出身の取締役9人全員の辞任を発表した。

田中氏は、経緯を謝罪した上で「政府高官が書面で約束した契約を一方的に破棄し、取締役会の議決を恣意(しい)的に無視する行為は、日本が法治国家ではないことを示している」と、語気を強めて批判。経産省側は、1億円は高額で国民の理解を得られないとして、合意後に撤回。田中氏は「経産省の提示が次々と変更された。信頼関係の毀損(きそん)行為が辞任の理由。回復は困難だ」と述べた。高額報酬については「お金のために来たのではない。報酬が下がっても孫の世代のため、国の将来を何とかしたい。提示額が1円でも来た」と訴えた。

経営陣の大量辞任は極めて異例で、今年9月に発足した同機構は3カ月あまりで事実上、機能停止。田中氏は三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長も務めた金融界の大物で、次期経営陣の選定も難航必至だ。安倍政権が成長戦略の一環で推進する官民ファンドの今後にも影響しそうで、同省側の事務的失態と認めている世耕弘成経産相は、あらためて謝罪し、政府と機構の連絡室を設置したと明らかにした。