児童虐待の増加は、18年も止まらなかった。警察庁によると、虐待を受けた疑いで児童相談所に通告された子どもは、今年上半期で3万7113人と過去最多を更新。東京・目黒では3月、虐待のために衰弱した船戸結愛ちゃん(当時5)が死亡し、その後、継父と実母が逮捕された。冬はベランダに出され、最期は体重約12キロだったという結愛ちゃん。悲劇の再発防止策は十分なのか。そして一般市民にできることとは。現場の声を聞いた。
結愛ちゃんが暮らしていた目黒のアパートは、クリスマスイブも静かだった。各部屋の雨戸は閉ざされ人の気配はない。周辺住民によると、事件後すぐ入居者の大半が「こんなことがあっては」と退居したという。当時路上に供えられた献花もなく、時間の経過を感じさせた。
事件では児童相談所(児相)の対応が問題視された。一家の引っ越しの際、重大な「ケース移管」とする香川児相と「情報提供」とした品川児相の引き継ぎにズレが生じた。品川児相の家庭訪問でも面会できず、警視庁と情報共有されなかったことも問題となった。
現場から約8キロ離れた品川児相は、再発防止へ粛々と動いていた。林直樹所長は「近県なら合同家庭訪問もできたが…。(遠距離の)香川県にも、やりにくさはあったと思う」と振り返り「結果的にはリスクを見極める作業ができていなかった」と反省点をあげた。
事件後、政府の指針のもとで、都と警視庁は9月、都道府県をまたぐ移管の際は情報共有する協定を結んだ。林所長も「個々のケースワーク、分析をこれまで以上に高めていく」とした。政府は22年までに、児童福祉司を2000人、増員する方針も示している。
ただ現場の特効薬となるかは未知数だ。品川児相の児童福祉司は約20人で、品川区と目黒区、大田区を担う。児童福祉司1人で虐待以外の事案も含め平均50件を担当。さらに調査中の事案30件以上を抱えるという。都職員で異動もある。「きちんとリスク判断できるまでに最低3年。人数だけでなく質も大切」(林所長)と課題もあげた。
現場近隣の母親は「小学校でも虐待と感じたら声をあげるよう先生から子どもに伝えられている」と話すなど、今も暗い影を落とす結愛ちゃんの虐待事件。悲劇の再発だけは許されない。【大井義明】
◆目黒女児虐待事件 結愛ちゃんは3月2日、肺炎による敗血症のため東京・目黒の自宅アパートで死亡。継父の雄大容疑者(当時33)は翌3日に傷害容疑で逮捕され、6月には実母の優里容疑者(当時25)とともに保護責任者遺棄致死容疑でも逮捕された。一家は今年1月に香川・善通寺市から転居。結愛ちゃんは食事が1日1食のこともあり、冬はベランダに出されていたという。毎朝4時ごろ起きて、ひらがなの書き取りをするよう命じられ、ノートに「きょうよりかあしたはもっとできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください」などと書き残していた。
◆児童相談所 都道府県と政令指定都市管轄で全国に212カ所。虐待以外に、保護者の失踪など養護環境や障がい、非行や触法少年の相談も受け持つ。事案の増加を受け、16年の児童福祉法改正で、東京23区など特別区による設置を認められるようになった。