児童虐待の増加は、18年も止まらなかった。警察庁によると、虐待を受けた疑いで児童相談所に通告された子どもは、今年上半期で3万7113人と過去最多を更新。東京・目黒では3月、虐待のために衰弱した船戸結愛ちゃん(当時5)が死亡し、その後、継父と実母が逮捕された。冬はベランダに出され、最期は体重約12キロだったという結愛ちゃん。悲劇の再発防止策は十分なのか。そして一般市民にできることとは。専門家の声を聞いた。

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虐待増加はなぜ止まらないのか。市民に何ができるか。教育評論家の尾木直樹氏(71)は増加の一因を「カプセル」と表現し、その脱出こそ解決策と訴えた。尾木氏は「都市も農村も、部屋にこもってスマホに頼る、孤立した『子育てのカプセル化』が起きている。ストレスの内圧が強まって噴き出している」と分析。「誰もがストレスをためやすく生きづらい社会」と、全ての親子が虐待の当事者になる可能性を示唆した。

尾木氏は増加要因に定義と意識の変化もあげる。「子どもの前での暴力を含む心理的虐待など、定義が広がった」ことや「虐待に通告義務があることが認知され、国民の虐待への意識も急激に変わった」ことも、増加の要因とみている。

昨今の虐待は、恵まれた環境の家庭でこそ注意が必要だという。児相反対運動で話題の南青山を例に「高学歴、億単位の家、塾通い、といった家庭が一番危ない。受験のプレッシャーなどが親子にかかり、頭で分かっていても虐待してしまう」と警鐘を鳴らした。

尾木氏は解決のために市民ができることは「地域がつながること」と主張する。「現代は地域のつながりが弱くなり、気軽に相談したり声をかけたりしにくい環境になった」とし「社会の温かい目は子育ての支えになる。周囲の人も『おせっかいでは』とためらわず、困っていそうな親子には声をかけて。地域が子どもを育てる」と道を示した。