大阪府の学校法人「森友学園」問題の一連のスクープを報じた後、異動を命じられたとして昨年8月に31年勤めたNHKを退局した、大阪日日新聞論説委員・記者の相澤冬樹氏(56)が日刊スポーツの取材に応じた。

相澤氏は森友学園問題が未解決だとし、渦中にある厚労省の統計不正問題と根本的には変わらないと強調。安倍政権は「なかったことにして説明するのはうまい」と批判した。

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NHK退局から半年。相澤氏の中で、森友学園問題は全く終わっていない。「説明がついていないにもかかわらず、終わったことにする風潮。総理大臣も財務大臣もそう言っているからって、たやすく信じる人が結構いる、不思議な構図」と首をかしげた。要因として、大阪地検特捜部が昨年5月に当時の理財局長・佐川宣寿国税庁長官ら財務省関係者ら38人を不起訴処分にしたことを挙げた。そして安倍政権について「なかったことにする、何も問題がありません、というのが本当に上手」と評した。

一方で、決裁文書の改ざんを指示され、同3月に自殺した近畿財務局の男性職員が残したメモが新証拠になると強調。「自殺現場で見つかったわけですから、警察が最初に把握し、財務省にも伝わっている。間違いなく、ある。問題は、出てこないこと」と訴えた。

昨今、問題となっている厚労省の毎月勤労統計調査問題も根は同じだという。「役所がこんなにいいかげんなことをやるのかという感じでしょう? 森友問題も財務省がこんなにいいかげんなことを、ということ。いいかげんなままにさせないことが大事」と訴えた。

また「31年間いて感じなかったようなことが、最後の2年間に集中した」と公共放送NHKが変質したと指摘した。具体的には

(1)国有地に建設を計画していた小学校の名誉校長に安倍晋三首相の昭恵夫人が就任していた件を原稿に書いたが、デスクに削られ全国放送されなかった。

(2)17年7月に近畿財務局が森友学園側に出せる上限額を聞き出したスクープを「ニュース7」で報じたが、報道局長から大阪報道部に怒りの電話が来た。

(3)昨年2月に、財務省が森友学園に口裏合わせを要求したスクープも得たが「クローズアップ現代」で取り上げられなかった。

などを例に「幹部が押さえにかかったのは忖度(そんたく)にしろ介入されたにしろ官邸が嫌がるから。今はあまりに政治にすり寄りすぎているから、おかしくなっている」と主張した。

一方で著書「安倍官邸vs.NHK:森友事件をスクープした私が辞めた理由」(文芸春秋社)がNHK局内の書店に発売日に50冊、平積みになり即日完売したと明かした。「現場にもものすごい鬱憤(うっぷん)がたまっている。心の中でおかしいと思っている人は山ほどいる」と局内にも良心はあると強調した。

相澤氏は「成果を出す、新事実をほじくりだすのが、ものすごく難しい…でも続けます。諦めない。辞めない」と繰り返した。【村上幸将】

◆相澤冬樹(あいざわ・ふゆき)1962年(昭37)10月29日、宮崎市生まれ。ラ・サール高校から東大法学部に進み、87年にNHK入局。山口放送局、神戸放送局、東京報道局社会部や大阪放送局府警キャップを歴任。BSニュース制作担当を経て12年に大阪放送局に。阪神・淡路大震災、介護保険制度創設、歯科医師国家試験漏えい事件などを取材。昨年8月に退局し、同9月に大阪日日新聞(新日本海新聞社)に入社。

◆森友学園問題と相澤氏の経緯 問題は17年2月8日に木村真豊中市議が会見を開き、近畿財務局が森友学園に売却した国有地の金額が情報開示されないのは不当だと訴えて発覚。相澤氏は、NHK大阪放送局報道部司法担当キャップとして会見から取材した。安倍首相は同17日に国会で「私や妻は一切関わっていない。もし関わっていたら間違いなく、首相も国会議員も辞任する」と答弁。その後、財務省が否定した事前の価格交渉をうかがわせる内部文書や音声データが明らかに。さらに昨年3月、財務省が問題発覚後、公文書の改ざんを行ったことが判明。当時の理財局長・佐川氏が辞任。相澤氏は取材の最中だった同5月に、番組のチェックなどをする考査部への異動の内示を受け、記者を続けるためNHKを退局。NHKは昨年12月の会見で、相澤氏の著書に「虚偽の記述がある」と反論した。