来年の東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの公式文化プログラムで公演を予定する、スペインの世界的なオペラ歌手プラシド・ドミンゴ氏(78)が2日、一部で報じられたセクハラ疑惑を受け、03年から務めてきた米国のロサンゼルス・オペラの総監督を辞任した。同氏は声明で辞任を認める一方、疑惑は否定しているが、同所での公演を全てキャンセルしており、東京五輪・パラリンピックへの影響も懸念される事態となった。

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ホセ・カレーラス氏(72)と故ルチアーノ・パバロッティ氏とともに“世界三大テノール”と称される、ドミンゴ氏が窮地に陥った。同氏は2日、声明を発表し「心血を注いできたが、メディアに批判的に報じられ、雰囲気が損なわれた。自分の名前をクリア(潔白)にするための活動を続ける」と疑惑を否定。一方で「辞任し、公演をキャンセルするのがロサンゼルス・オペラにとって最大の利益と判断した」と、辞任と公演のキャンセルは認めた。

ドミンゴ氏のセクハラ疑惑は、8月にAP通信が、同氏が80年代後半から30年以上にわたって女性歌手やダンサー、舞台のスタッフらに性的に不適切な行為をしていたと報じたことに端を発した。被害を告発した9人のうち唯一、実名を公表したメゾソプラノ歌手のパトリシア・ウルフ氏は、ステージを降りる度にドミンゴ氏から「今夜は家に帰らないといけないのか」と迫られたと告白した。

AP通信は9月にも続報として、さらに11人の女性が望まないのにキスされたり、服の中に手を入れられたと告発したと報じた。ソプラノ歌手のアンジェラ・ターナー・ウィルソンは、ブラジャーの中に手を入れ、胸をわしづかみにされたとし「本当に痛かった。紳士的な振る舞いではなかった」と明かした。ドミンゴ氏が舞台裏で性的に不適切な行為をすることは、業界内では“公然の秘密”とされていたという。一部のプロデューサーは、同氏と若い女性歌手を一緒にリハーサル室に入れないなどの措置をしたと告白した。

ロサンゼルス・オペラが内部調査を進める中、フィラデルフィア管弦楽団やニューヨークのメトロポリタン歌劇場は、ドミンゴ氏の出演中止を決定。ドイツの国際公共放送「ドイチェ・ベェレ」電子版は「東京五輪・パラリンピック大会組織委員会も招聘(しょうへい)するか否かを検討中」と報じた。

ドミンゴ氏が大会公式文化プログラムに出演予定だった2020東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は「事実関係を調査中」とした。同プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の目玉として来年4月に「歌舞伎×オペラ」として市川海老蔵との共演が予定されていた。4月の記者会見ではドミンゴが「海老蔵から歌舞伎の所作を基礎から学ぶことになる。楽しみ」とメッセージを寄せていたが、夢の共演も幻になる可能性がでてきた。