元暴走族の経歴を持つ異色の予備校講師・吉野敬介氏(53)が、独立して誰もが見られる無料動画の授業を開始することが4月1日、分かった。

吉野氏は東進ハイスクールで古文を担当する“ヤンキー先生”として人気を誇ったが、3月31日付で辞職。動画投稿サイト「ユーチューブ」上で6日から10分単位の授業を公開する。新型コロナウイルスの影響で自宅待機となった受験生に朗報となるか。

   ◇  ◇  ◇

勉強に集中したい大学受験生にとって、新型コロナウイルスのまん延の影響は深刻だ。予備校などに通いにくくなり、勉強の場を奪われてしまっている。外出せず自宅でレベルの高い授業を無料で受けられたらどうだろうか?

古文の人気講師だった吉野氏が3月31日で有名予備校の東進ハイスクールを辞めた。ユーチューバーになり、10分単位の授業を公開するという。料金はかからない。

都内で行われた動画授業収録の現場を直撃すると教育の無償化を訴えた。

吉野氏 現役の高校3年生が大学受験をするために年間で必要な金額は平均で80万円と言われている。この金額が安いのか、高いのか。親は大変だ。生活費以外で80万円を工面しないといけない。オレの近しい男性に大学受験をする子どもがいて、塾に通わせたいが生活に追われて、そこまで出せないと悩んでいた。そんなウワサが耳に入ってきた。ストレスも積もっていって、その男性は自殺をしてしまいました。どんなにきれいごとをいっても、これが現実なんです。子どもが少なくなって受験は戦争ではなくなり全入といわれるようになった。でも、経済的に豊かでない家庭の子どもは勉強する意志を持っていても、大学に行けずに苦しんでいるケースもある。だから、誰にも平等に無料で授業をしたいんです。

インターネット配信であれば、受験生は場所に限定されずにどこでも授業を受けられる。授業を受ける場所までの移動時間もなくなることは、何を意味するのか?

吉野氏 オレは高校を卒業して働いた。小学生のころは成績がよくて“神童”とかいわれていい気になっていた。中学からグレて暴走族に入ってツッパって補導されたけど、なんとか高校を卒業できた。一念発起して20歳の秋から受験勉強を始めた。当時の偏差値は地をはうような25。1秒でも時間は惜しかった。インターネットなら、ユーチューブなら時間の壁を乗り越えられる。

その窓口として誰もが持つスマホを活用する。

吉野氏 今の時代、誰もがスマホを持っているし、すべてとはいわないが、ほとんどの情報はスマホでとれてしまう。時間を自由に使えて、場所に限定されず、そして録画した授業は生徒のスマホから受けられる。それと、今の子どもでは90分授業は長い。オレは面白い話をして、ときどきちゃんとためになる古文の要素をブチ込んで、90分食らいつかせる自信はある。でも、冷静に考えれば、動画に食らいつかせるなら10分単位なんじゃないか。

3月31日まで所属していた東進ハイスクールには公開授業というものがある。

講師が教壇に立つのではなく動画撮影をして、現役生を対象とした90分の授業を配信するのが東進ハイスクールのやり方だ。部活や高校の授業によって時間が制約される高校生が「いつでも」授業を受けられるようにモニター画面を用意して、生徒が教科選択した授業を受けたい時に自分のペースで受けられる方法論が大ヒットした。

これが、高校や地方の塾に配信する「フランチャイズ方式」の経営戦略になる。そのお試しコースとして、新年度が始まる前に所属の人気講師を派遣して、生徒が講師と同じ空間で生で接することができる「公開授業」を実施している。

公開授業の会場は通常50~100人。ただし、吉野氏は地方に至るまで知名度が高かったので300~500人の会場で実施していた。この“お試し授業”で年間講義契約をする生徒を全国で増やしていった。

すでにユーチューブでどのように伝えていくのか、吉野氏には短時間で数多くの講義を繰り出していくというイメージができあがっている。

第1回の配信を6日に予定している。手応えはある。同時期に東進を辞めた英語講師の森田鉄也氏が昨年からスタートさせたユーチューブの番組に吉野氏は今年3月に2回ゲスト出演した。すぐに視聴回数が10万回を越え、吉野氏の人気の高さを証明した。

無料授業を行うのは、吉野氏と森田氏の2人だが、今後講師陣は増やしていく。話題になる→他の講師の反響を探る→ユーチューブ講師のオーディションを開催し、ユーチューブ予備校で最強布陣を構築するという方針までできあがっている。

番組の名称は「ただよび」。ユーチューブを介した無料の予備校であることからこの名称にした。

吉野氏 オレなんて元暴走族で髪形がリーゼントでベルサーチをまとって、腕にはロレックス。こんな一発屋で24歳から予備校講師を始めて30年も走ってこられた。もう、教育界には感謝しかない。今度は恩返しをする番。ちょうど区切りの年だし、53歳ならまだ脂が乗っている。予備校講師でユーチューブを使った無料授業なんて誰もやったことがない。その最初になる。やれる体力、気力があるうちに転身したい。東進とも円満に話し合って、離れることができた。そもそも、オレみたいのが上につかえていたら、若い講師の活躍の場だってない。オレが東進から出て行くことで新たな何かも起こる。新型コロナウイルスのまん延で外出もままならないけど、自宅でオレが古文を教えてやる。受験生、ついてこい。この日本、まだまだ、やれることはいっぱいありますよ。

ただし、課題はある。

吉野氏 無料は難しい。通常の予備校は子どもが親に授業料を払ってもらっている。この授業料の分はとりかえしてやろうという気持ちになるはずなので、どんなにいやでも授業には出るはず。でも、いつでも、どこでも、スマホで簡単に見られる授業では、入りやすい分、離れていくのも自由。どうやって引き留めるのか。ここは相当難しい。

そこで吉野氏が組んだのは、ゲーム開発の「レッドクイーン」。AKB48グループのゲームアプリなどで人気だ。吉野氏は、15年ほど前に知人を介して同社社長の慶長(よしなが)聖人氏と知り合い、以後家族ぐるみの交流を持っていた。1年の構想期間を経て、動画による無料の予備校の仕組みをじっくり話し合ってきた。

勝算はあるのか?

慶長氏 あります。なければ仕掛けない。無料である分、多額の授業料を支払うのと比べて視聴し続けるモチベーションが維持できなくなる場合があるので、継続させるために魅力のある企画を出していくつもりです。これはまだ秘密です。視聴回数はあがると思います。吉野氏は予備校講師で30年です。しかもトップの座から落ちたことがない。年間の大学受験生が全国で約70万人、そのうち5%の3万~4万人の受講者に加えて、吉野氏の教え子が100万人は超えているので、10分の講義なら、この教え子も対象に入ってくる。なにしろ、無料なんですから。吉野氏の教え子でなくても、市民講座のような感覚で視聴する老若男女もいるはずです。また、大学受験を目指している人気アイドルの受験企画番組を提案することも可能です。今はここまでしか言えません。可能性は無限に広がっています。

ネットの波に乗ってリーゼント姿のヤンキー先生が教育界に無料授業の革命を起こす。【寺沢卓】