テレビや新聞やネットからは毎日、数え切れないほどのニュースがあふれてきます。子どもにも関係のあることも多いのですが、分かりにくいことや知らない言葉もたくさんありますよね。日刊スポーツは毎週日曜日、大切なニュースを少しでも分かってもらうため「ニュースの教科書」を始めます。第1回は「新型コロナウイルスでWHOがパンデミック宣言」についてです。

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【日刊スポーツ新聞3月13日の記事】

世界保健機関(WHO)がついに新型コロナウイルス感染症を「パンデミック(世界的大流行)」と表明した。感染は、110以上の国・地域に広がり、早期終息が困難になったとの判断にいたった。

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世界保健機関(WHO=ダブリュー・エッチ・オー、World Health Organization)のリーダー、テドロス・アダノム事務局長は3月なかばに「新型コロナウイルスはパンデミック(pandemic)と言えます」と発表し、世界中に強力な対策を求めました。WHOがパンデミックという言葉を使うことは、ほとんどありません。それだけ世界がとても危ない状態になっていることを表しています。

このころから、ヨーロッパやアメリカなどで感染(かんせん)が爆発(ばくはつ)的に広がり、世界のたくさんの国々が人々の外出や国の出入りを禁止したり、学校を長期間休みにしたりして、感染の広がりを止めようとしています。イタリアやアメリカなど、感染者が急に増えた国では、感染した人をへだてて治療する場所、医者や看護師(かんごし)、人工呼吸器(こきゅうき)などが足りなくなり、さらに悪い状態になっています。

◆194カ国・地域加盟、スイスに本部

そもそもWHOって、何でしょうか。1948年に「すべての人々が最高の健康になること」を目的に世界が協力し合うためにできた国際連合の機関です。日本も1951年に加わり、現在は世界の194の国と地域が参加しています。本部はスイスのジュネーブ。世界を6つの地域に分けて活動しています。日本は30国・地域が加わる西太平洋地域に入り、事務所はフィリピンにあります。またWHOはフランスのリヨンと日本の神戸に研究所を置いています。

◆ツノの形から名付け、感染100万人以上

コロナウイルスは動物や人に感染するウイルスのことです。まわりに飛び出したツノのようなものの形が、太陽のまわりに光のように見える「コロナ(corona)」に似ているから、名付けられました。

人に感染するコロナウイルスはこれまで、風邪4種類と、動物から感染して重い肺炎などを起こす「重症急性呼吸器症候群(じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐん、SARS=サーズ)」と「中東呼吸器症候群(ちゅうとうこきゅうきしょうこうぐん、MERS=マーズ)」の2種類が知られていました。

コウモリからの感染と考えられるSARSは02年11月に中国で発生し、32の国・地域に広がり、感染者8069人、死者775人を出しました。ヒトコブラクダからの感染とみられているMERSは、12年にサウジアラビアで発生し、27の国で感染者2494人、死者858人となっています。

新型コロナウイルスは、昨年12月ごろ中国湖北省(こほくしょう)の武漢(ぶかん)という場所で発生したとみられ、新しい7番目のウイルスと分かりました。WHOはこのウイルスが起こす肺炎などの症状を「COVID(コビッド)-19」と名付けました。体がウロコのようなものにおおわれた、めずらしい動物「センザンコウ」から似たウイルスが発見されています。いまや、世界で200を超える国や地域(ちいき)に広がり、感染者は100万人、死者も5万人以上になっています。

◆「すべて」「人々」語源、コロナでは初

「パンデミック」という言葉は、ギリシャ語の「すべて=pan(パン)」と「人々=demos(デモス)」からできた「pandemia=パンデミア」が語源(ごげん)の英語です。病気が世界中で流行し、人々がコントロールできなくなったことを意味します。WHOはインフルエンザでこの言葉を使うことにしていて、09年の新型インフルエンザ流行で出したことがあります。

SARSが流行した時、WHOは発生から約8カ月後の03年7月に流行が終わったという宣言(せんげん)を出しました。今回のコロナウイルスの流行がいつ終わるか、いつ薬ができるか、専門家(せんもんか)の間ではいろんな意見があり、まだ分かりません。

◆「世界は1つ」意識を持ち行動を

WHOは「憲章(けんしょう)」という大切な決まりにこんなことを書いてます。「世界の人々が健康であるかは、個人と国家の全面的な協力が得られるかどうかにかかっています。ひとつの国で健康の増進(ぞうしん)と保護(ほご)を達成(たっせい)できれば、世界全体にとっても有意義(ゆういぎ)です。健康増進や感染症対策(たいさく)の進みぐあいが国によって異(こと)なると、すべての国に危険(きけん)が及びます」。

新型コロナウイルスはすぐに世界中に広まり、たくさんの人々が亡くなり、苦しみ、生活や人生を変えています。国も人種も宗教も関係ありません。自分だけ、自分の国だけ感染しないようにしても、ほかの人や、ほかの場所で感染が続いていれば、ウイルスはまたやってきます。人は昔からいろんな病気と闘ってきました。世界中を自由にすぐに移動できる今は、さらに広がりやすいともいえます。あらためて世界は1つ、みんなが地球の一員ということを考えたいものです。病気でも、地球温暖化(おんだんか)などの環境問題でも、みんなで考え取り組んでいくことがとても大切ではないでしょうか。【久保勇人】

◆久保勇人(くぼ・はやと) 1984年入社。静岡支局、文化社会部、アトランタ支局、スポーツ部などを経験。国内の事件、皇室、旧ソ連崩壊、ペルー大統領選などを担当。五輪は92年バルセロナ、96年アトランタ、00年シドニーの現地取材、デスクを担当した。