新型コロナウイルスの感染拡大で、ホールでの落語会だけでなく、一年中ほぼ休むことなく開いていた寄席も休業要請の対象になり、落語界が静まり返っている。東西合わせ900人を超える落語家は悲鳴を上げているが、とりわけ深刻なのが前座、二つ目。ウーバーイーツの配達をして糊口(ここう)しのぐ若手も出ている。

そこで「仕事がない前座の雇用を!」と立ち上がったのが新作落語でおなじみの林家彦いち(50)だ。「若手のネタになるし、お給金くらいになるかもしれない」とマスク作りを開始した。ポリエチレンの素材を型紙に合わせてレーザーカッターで裁断する方式で、1番弟子の前座・林家やまびこ(24)に作らせてみたところ、「あっという間にできるようになっちゃった」。やまびこ1人で1日100~150枚も生産できるようになったという。

「型は私の顔から取りましたから、Sサイズはありません。大人の男性向けですが、商品名は『前座マスク 師匠の飛沫を止めた』に決めました」と彦いち。5月6日まで続く休業期間中、やまびこが製造し、3番弟子のひこうき(22)がラベル、2番弟子のきよひこ(32)が梱包(こんぽう)、発送と、弟子3人が手分けする家内制手工業のような態勢も出来上がった。

「半分シャレですから、仲間内や(TBSラジオ『久米宏ラジオなんですけど』で共演する)久米さんや堀井さん(堀井美香アナ)に3枚1000円で配って、一般の方にもホームページで告知しようかと思っています」と彦いち。初めての事態にどうしていいか分からず、戸惑う落語家の間でマスク作りが広がるかもしれない。【中嶋文明】

◆林家彦いち(はやしや・ひこいち)1969年(昭44)鹿児島県生まれ。89年、林家木久蔵(現・木久扇)に入門。00年、NHK新人演芸コンクール落語部門大賞受賞。04年、春風亭昇太、柳家喬太郎、三遊亭白鳥とSWA(創作話芸アソシエーション)を結成し、落語ブームの起爆剤となった。「久米宏ラジオなんですけど」の名物コーナー「ネタおろし生落語『彦いち噺』」で毎週披露してきた創作小ばなしは昨年、「瞠目笑(どうもくしょう)」として単行本になった。