大阪・心斎橋にある「スナック&バーえまり」では、店内の接客に代わる「バーチャルスナックえまり」を営業している。インターネット上で対面し、お酒を飲むスタイル。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう休業要請などで、苦境にあるスナックの新たな業態を体験してみた。

スナックの店主は井口茉莉江さん(28)。乾杯から始まったバーチャルスナック。取材ということで最初は緊張していたようだった。肩までかかる長い髪。グラス片手に画面越しに見つめてくる。飲んでいたのは焼酎のジャスミンティー割り。「おいしいですよ」。画面の向こうから、笑顔を送ってくれた。

バーチャルスナックを始めたのは、大阪に緊急事態宣言が発令されてすぐ。以前、東京のガールズバーがいち早くバーチャルで営業していたという話を思い出したからだ。「休業要請があっても家賃を払っていかないといけない。うちでもできないだろうかと思って」と明かした。

LINE(ライン)やツイッターから予約を取り、オンラインで決済。テレビ会議アプリ「Whereby」で通信する。基本料金は60分2000円で、店主に飲み物をおごると加算される。

普段は華やかなワンピース姿で接客するが、バーチャルスナックは上半身のみが映るため、下はスエット。携帯電話を持ってその様子を見せてくれたが、見ているこっちが照れくさい気分になる。1対1という環境からか、秘密を共有しているような気分になった。

常連客に利用してもらおうと開始したサービスだったが、メディアで取り上げられるようになってからは、新規の地方の客がほとんどだという。「口説かれることもあるでしょ?」と問うと、「お客さんは草食系が多いんですよ」とはぐらかされた。

お客さんと話す上で気をつけていることは、自分から仕事や家族の話を振らないこと。「飲んでるときぐらい仕事のことを忘れたいでしょ」。バーチャルスナックの長所は他の客がいないこと。誰にも邪魔されず、1時間みっちり、話もできる。

茉莉江さんはプロ野球阪神タイガースの梅野隆太郎捕手のファンだといい、店内にはサインボールなどが飾ってある。

カラオケもあり、1曲お願いすると、「今、ドラマやってるから」と浜崎あゆみの「M」を熱唱してくれた。「バーチャルで歌ったの初めて。『カラオケ・バージン』奪われた」と少し恥ずかしそうに笑った。

外出自粛でストレスも募るばかり。オンラインでの対面でも、人との会話がこんなに楽しいものかと感じた。コロナ禍が終息した際には、店に飲みに行きたくなった。【南谷竜則】