カメラ2台に三脚、必要な機材を準備して1歩また1歩と急な坂を上っていく。十数キロのリュックが肌寒い函館の夕暮れで大粒の汗を誘う。ふと立ち止まり、額を拭いながら顔を上げる。ゴールの丁字路ははるか先だ。「長いなぁ」。そうつぶやきながら苦笑いで視線を足元に落とす。再び右足、左足と無心で足を出していくと、ようやく道が平らになった。「やっと着いたぁ」。機材を下ろして体を伸ばし、そこで初めて振り返った。

八幡坂-ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンにも掲載された函館の名所だ。急勾配の坂の両サイドには街路樹が並び、街灯は石畳を照らす。その先に見えるのは函館湾。その昔、青函連絡船として活躍した摩周丸のライトアップが見える。

思わず息をのんだ。急な坂を苦しい思いで上ったから見える景色も格別に感じたのだろうか。

今の世の中も急な坂道のように思う。足元に視線を落として1歩ずつ確実に進んでいかなければならない。これを上り切ったらどんな景色が見えるのだろうか。そんなことを考えながら、しんと静まり返った坂の上で風の音に耳を傾けていた。【河野匠】

<撮影データ>4月27日午後6時55分 キヤノン「EOS-1DX Mark2」 70-200ミリズーム(焦点距離70ミリ) ISO感度100 シャッタースピード15秒 絞り16