歴史的快挙を達成した藤井聡太棋聖(17)が憧れの存在と公言し、同じく14歳、中学2年でデビューした谷川浩司九段(58)が日刊スポーツの取材に応じ、異次元の強さを見せる17歳の「未来」を語った。「将棋の概念を打ち破るかもしれない」。将棋界では人工知能(AI)による研究が全盛時代を迎えている。AIと共存しなければいけない時代、藤井はどんな未来を生きるのか。「藤井聡太棋聖が歩む未来~AI時代とともに~」と題し、3回にわたり、連載をスタートします。

史上最年少の21歳で棋界の頂点となる名人位を獲得した谷川は、藤井の驚異的な進化に驚きを隠せない。「完成度が高い上に、まだ伸びしろがある」。自らの17歳との比較について「あえてわかりやすい表現をすると」と前置きし、「野球に例えるならストレートの速さは、いい勝負になる。だけど球種と制球力はまったくかなわない」と話した。

さらに舌を巻くのは緩急の自在さだ。「棋聖戦の挑戦者決定戦。永瀬2冠と、一直線に切り合う局面になりそうな時、流れをせき止め、緩やかにして、次の戦いに持ち込んだのは印象的だった」。

90年代、羽生善治九段(49)の最大のライバルだった谷川は「この緩急自在の指し方は、プロでもできる人が少ない。羽生さんはそこがうまい。ただ羽生さんも、さすがに10代後半ではそれは持ち合わせていなかった」と振り返った。

「怪物」とも呼ばれる17歳はAI世代でもある。平成時代の後期、将棋界に最も大きな影響を与えたのがAIの進化だった。いまでは「人間以上」の棋力とされるソフトを多くのプロ棋士が研究に取り入れている。藤井も例外ではない。ただAIの「答え」をうのみにはしない。AIから得られる知識をうまく生かしながら、自らが考えて結論を出す。新時代にあった「藤井将棋」を作り上げていっている。

近い将来、急速に発展するAIは、さまざまな分野で人間の仕事を代用できるようになるといわれる。AIと共存するために最も必要とされるのは人間の「先を読む力」だとされる。藤井と対局した棋士が驚くのが「圧倒的な先を見通す力」だ。

将棋界のレジェンド・谷川が直感する「将棋の考え方、概念を打ち破るかもしれない」。大の阪神ファンの谷川は藤井を「大谷選手です」と例えた。メジャーリーガー、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平(26)は投手と野手の「二刀流」を続け、日米野球界の既成概念を覆した。

「大谷選手のようにスター性があり、藤井さんの将棋には華がある。プロが見ても、おもしろい将棋。プロ棋士の予想を超える手が出る」。盤上にプロたちもうならせるような「作品」を生み出すことができる。 進化したAIをもってしても、藤井の1手を予想できない時がある。天才たちがしのぎを削る将棋界に、どんな変化をもたらすのか。「多くの棋士が藤井の将棋をまねる時代が来るかもしれない」。かつて、そう予言した棋士がいた。

(つづく)【松浦隆司、赤塚辰浩】