安倍晋三首相の後継となった自民党の菅義偉新総裁(71)が16日、臨時国会で第99代内閣総理大臣に指名された。秋田生まれ史上初の首相が誕生し、東北では岩手生まれの原敬、斎藤実、米内光政、鈴木善幸に続く5人目。しかし、首相官邸のホームページでは出身地の原則を「選挙区」としており、菅氏は「秋田出身」ではなく「神奈川出身」の首相になる。

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秋田県にとって悲願だった。政権NO・2の官房長官職は菅氏の前にも根本龍太郎、石田博英、村岡兼造と輩出してきたが、最高位には届かなかった。そのため菅氏は「神奈川出身首相」になるものの、生まれ故郷の湯沢市・秋ノ宮(旧雄勝郡秋ノ宮村)を中心に祝福ムードに包まれている。

同市在住で秋ノ宮小、秋ノ宮中、湯沢高校の同期だった伊藤英二さん(71)は、菅少年について「スポーツ万能で勉強はあまりしないが頭はいい。当時から交渉能力は高かった」と証言。衆院議員になった時点で首相就任を信じて疑わず「『総理大臣を目指せ』と常々言ってきた。ずっと信じていたが、思ってたよりは遅い。70歳を過ぎてるので、できれば60代でなってもらいたかった」と本音を口にする。

小さな村から秋田生まれ初の首相が誕生した。「すごくいいことだと思うし、こういう田舎から日本のトップになれたのは彼が努力をしてきた結果。子どものころからそういうことができる男だった」。コロナ禍かつ国内外での課題は山積み。手腕が問われるが「1年(安倍氏の総裁任期を受け継ぐ来年9月まで)だと難題解決は無理なので、ぜひ4年やってもらいたい」と期待する。

菅氏、伊藤さんが卒業した秋ノ宮小は15年7月に「雄勝スポーツセンター」へと生まれ変わった。各種スポーツ教室が行われ、トレーニングルームも完備。さらに文化系サークルで住民が集うなど地域活性化の拠点になっている。そこには菅氏の座右の銘「意志有れば 道在り」の色紙が展示。地元にとって同氏は、農家で育ち、道なき道を進み、日本の最高位まで成り上がった誇り。いつの日か秋田に凱旋(がいせん)する菅首相を心待ちにしている。【山田愛斗】

◆東北出身の首相 都道府県ランキングでは、岩手が3位タイの4人を輩出。第19代原敬は盛岡藩士の家柄から1918年(大7)に日本初の政党内閣をつくり「平民宰相」と呼ばれる。第30代斎藤実は31年に五・一五事件で暗殺された犬養毅の後任。岩手県尋常中(現盛岡一高)出身の米内光政は海軍大臣から40年に第37代に。第70代鈴木善幸は山田町の網元の家に生まれ、80年7月から2年4カ月務めた。ただ菅首相は慣例として歴代3人目の神奈川出身となる見通し。首相官邸ホームページ(HP)が戦前は「出生地」、戦後は「選挙区」を出身地の原則としているため。