アフターコロナの新たな生活様式、「ワーケーション」が注目されている。「ワーク(働く)」と「バケーション(休暇)」を合わせた造語で、働き方改革の一環。地方自治体、観光地やリゾート地を抱える企業、遊園地などでさまざまな試行錯誤が始まっている。JR東日本が「GALA湯沢スキー場」(新潟県湯沢町)で実施したモニターツアーに同行。ワーケーションの実用化に向けた企業側の取り組みを取材した。【赤塚辰浩】

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最近よく耳にするようになった「ワーケーション」。いったいどんなものなのか? 「GALA湯沢スキー場」を訪れると、参加者が風速50メートルにも耐えられるテントを張ってのアウトドア体験や、湯沢町とその周辺の景色が眼下に見える部屋でテレワークをしていた。高層ビルに囲まれた都会のコンクリートジャングルとはまったく違う光景だ。

仕事の合間にブナ林の中でヨガをして体をほぐしたり、ゲレンデなどをマウンテンバイクで疾走する人も。参加した20代~30代の男女からは「豊かな自然環境の中でディスカッションできるから、クリエーティブ系の仕事に向く」「仕事をしながら、元気を得られる。自宅と会社の往復とは違い、心も体もリフレッシュできる」などの声が聞かれた。ある既婚男性は「金曜日に自分が先乗りして働いて、週末は妻や子供と合流して観光と、効率的に過ごせそう」とも話した。

今回のモニターツアーには、139人が参加した。主催したJR東日本は寄せられた意見を吸い上げ、今後に生かす方針だ。GALA湯沢には宿泊施設がなく、湯沢町の施設と連携して地域への人とお金の流れを創出することを目指す。「最終的にはツアーを商品化する。ここだけでなく、管内の鉄道と観光施設を利用したワーケーションツアーを作りたい」。JR東日本事業創造本部・桑原和憲課長(47)はこう見据える。

コロナ禍で日本経済は冷え込んだ。JR東日本の深沢祐二社長も、先月「20年度1年間の業績予想は最終的に4180億円の赤字」と、発表した。鉄道の利用者の大幅減、ホテルや売店などの売り上げ減が要因だ。「インバウンド(訪日外国人)の観光需要は当分、見込めない」(桑原課長)現状の中、ワーケーションは「働き方改革」だけでなく、「内需拡大」への大きな柱として期待される側面もあるのだ。

温泉や観光名所を抱える地方自治体、インバウンドが利用者の7~8割を占めていたホテルや旅館、ツアーを催行する旅行会社も状況は同じだ。「お得意さま」が消え、稼働率20~30%と、苦戦する宿泊施設もある。前年並みのツアー客や観光名所の入場者などは見込めないのが現実だ。

現状を打破するため、宮城県では9月25日に協議会を結成した。自治体、県内の有力企業、観光地を抱える宿泊施設などが「ワンチーム」となり、ワーケーション誘致を目指す。JTBパブリッシングは9月末、兵庫県洲本市との包括連携協定の中で、積極的に取り組んでツアー客を送り込むと明言した。

小泉進次郎環境相自ら体験するなど、ワーケーション導入に積極的な環境省は、20年度補正予算で30億円を計上し、国立・国定公園や国民保養温泉地への誘客、ワーケーションの推進を支援し、地域経済の再活性化を目的とした補助事業に取り組んでいる。省内の職員が利用しやすい環境も整えるとしている。

通信環境の設定、地元の受け入れ態勢など解決すべき課題も多い。しかし、新しい日常としての一歩が始まっているのは確かだ。

〇…新型コロナウイルスの感染が拡大する前から、ワーケーションは提案されていた。地方自治体としては昨年7月、長野県と和歌山県が共同で動き始めた。長野県産業労働部「創業・サービス産業振興室」の丸山祐子室長は説明する。「当時、東京五輪・パラリンピックを1年後に控え、期間中に混雑する東京を脱出してリゾート地でテレワークをと、国が呼び掛けたのに応じたのです」。

同年11月には「ワーケーション全国自治体協議会」が設立され、三重県、長野市など65県市町村が賛同。現在は15道県、103市町村の規模に広がった。丸山室長は「拠点の整備、働く場所の提供など、ワークライフバランスを整え継続的な地域振興をやってほしい。ブームで終わらないように」と話している。