大阪市を廃止し4特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票が1日実施され、僅差で反対が賛成を上回り否決となった。政令指定都市として存続する。都構想を推進してきた大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長(56)は1日深夜、同市内で記者会見し、公言していた通り、任期満了での政界引退を表明した。代表代行の吉村洋文大阪府知事(45)は悔しさをにじませた。結党の原点である看板政策の2度の否決。維新は存続の危機を迎えた。投票率は62・35%。

1日深夜、大阪市内のホテルで開かれた大阪維新の会の記者会見。松井氏は吉村氏と一緒に並んで座った。大阪市民から2度目もノーを突きつけられた。マイクを握った松井氏は「私の力不足です。大阪市民の民意をしっかりと受け止める」と敗戦の言葉を語った。目にうっすら涙をためて会見に現れた吉村氏は「否決という判断を尊重したい。僕自身が都構想に挑戦することはもうない」と述べた。

前回の否決から5年。党の命運をかけた2度目の住民投票だった。連日、松井氏は吉村氏と街頭で「二重行政の解消」を訴えた。前回15年の住民投票は圧倒的な発信力のあった元大阪市長の橋下徹氏(51)が旗振り役だった。今回は新型コロナウイルス対策で一躍、全国区になった吉村氏が代役を務めた。

ジャンパー姿の吉村知事が「YES!都構想」と記した宣伝カーの上でマイクを握ると道行く人が一斉にスマートフォンを向ける人気ぶりだった。橋下氏と同様にツイッターなどSNSをフル活用し、維新の顔として支持を訴えた。前回の住民投票で反対した公明党は今回、賛成に転じたが、反対派の自民党などは「住民サービスは落ち、大阪市民は損をする」と大阪市存続を訴えて都構想批判を展開。“吉村効果”だけでは改革の必要性は市民に浸透しなかった。

「負けたら政治家として終了」と退路を断って臨んだ松井氏は「敗因は僕の力不足だ。次の世代には頑張ってもらいたい」。公言通り、23年春までの任期を全うした上で政界を引退する意向を表明した。吉村氏は自らの去就について明言はせず「任期満了の直前に判断する。僕自身の人生ですから。政治家は長くやっているのはいいとは限らない」と述べた。

維新創始者の橋下氏に続き、屋台骨を支え続けたトップの引退。“松井ロス”に維新関係者は言う。「だれが党を引っ張るのか…。もう解散やな」。維新が崩壊の危機に立った。【松浦隆司】

◆大阪都構想 府知事と市長を務めた橋下徹氏が10年に提唱。政令指定都市の大阪市を廃止して東京23区と同様の特別区に再編する構想。成長戦略など広域行政を大阪府に一元化し、特別区が住民サービスを担う。賛成多数で可決されていれば、大阪市は25年1月1日に廃止され、政令指定都市が廃止されれば1956年の制度創設以来、初めてだった。特別区は「淀川」「北」「中央」「天王寺」の4特別区への再編案だった。

◆維新 10年4月、大阪府知事だった橋下徹氏が大阪都構想を掲げて地域政党「大阪維新の会」を結成。代表に就任。11年11月、大阪府市トップの「ダブル選」で市長に橋下氏、知事に松井一郎氏が当選。12年9月、橋下氏が国政政党「日本維新の会」を結党。14年6月、分党。15年5月、大阪都構想が住民投票で否決。橋下氏は政界引退を表明。その後、維新の党は分裂。新たな国政政党「おおさか維新の会」を結成。16年8月、国政政党名を再び「日本維新の会」に変更した。