新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況になる中、東京・豊洲の東京中央卸売市場で5日、初競りが行われた。近海で取れた注目のクロマグロは1匹で億単位となる取引はなく、1キロ当たり10万円、2084万円が最高値という、「妥当なご祝儀相場」で落ち着いた。不要不急の外出を控える波が市場を包み込み、一般の競り場は人気はなくガラガラ。本来なら景気のいい初競りだが、コロナの猛威で例年とは違うさみしい幕開けとなった。

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5日早朝、豊洲市場のマグロ生鮮大物のコーナーは熱気にあふれていた。午前5時10分、「カラン、カラン」と競り開始のカネが鳴る。今年は競り人が持つ「競り帽」をかぶらなければ生鮮大物が並ぶエリアに入ることができない。「帽子をかぶっていない人は出てください」「3密は避けましょう」と、場内アナウンスが響き続けた。

クロマグロを中心にメバチ、キハダなど17・3トンが全国から集結。昨年比1・5トン増。競り人から「飛び抜けた大物はない」「100キロ超の脂乗りのいいものがそろった」の声が出た。

クロマグロの産地で知られる青森・大間漁港からは11匹入荷し、100キロ超は8匹。ただ今季は暖冬に悩まされ、冷え込んでからはシケで船を出せず、12月28日までは50キロ超さえ、かからなかった。シケが収まった29日から1月4日までの短期間で、はえ縄漁に大物がかかってきた。

キロ単価10万円の高値を208・4キロに付け、2084万円で落としたのは仲卸「やま幸(ゆき)」だ。4日に釣り上げられたばかり。山口幸隆社長(57)は「億がつくのがおかしい。妥当な初値ですね」と、笑った。1999年以降では7番目の高値だ。

この一番マグロを含め、198キロと203・4キロの3匹を米国や銀座ですし店を経営する「銀座おのでら」が購入。店頭で解体され、昼のコースランチ(5000円~)にカルパッチョとして提供されたほか、ロサンゼルスとハワイの各支店に空輸された。

マグロ以外のアジ、サバ、ブリ、マダイなど一般鮮魚の総量は、昨年比約15%減。都内のすし店経営者は「閑散として、買う人がいない。こんな初荷は初めてだ」と驚いた。1年の幕開けを景気づけるはずの初競りだが、緊急事態宣言発令を控え市場の活気もいまひとつ。ある仲買人は「緊急事態宣言が言われたためか、電話注文ばかり。寂しい初競りでした。これからどうなるんでしょう」と、ため息をついた。【寺沢卓】

 

▼豊洲市場の一番マグロ(1キロ当たりの最高値)は大間産。第68幸福(こうふく)丸の田中稔船長(65)がはえ縄で捕獲した。初競りにギリギリ間に合う4日午前8時ごろ、大間漁港の約30キロ沖で取った。「引き上げるときに重たくて『やったな』と思った。脂乗りに間違いはない」と話し「やっぱり一番マグロは特別だ。1年の始まりで幸先はいいね」と笑顔をまじえた。

漁師歴は約50年。今回、最も重い235キロと2匹を送り出した。豊洲の初競りでは昨年まで、2年連続で億単位の値が付けられたこともあってか「船の借金返済と酒を飲んでしまえばおしまいだ」と、冗談交じりでボヤいていたという。