新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外からの観客受け入れが見送られた東京五輪・パラリンピック。ピンバッジ愛好家が一堂に会し、互いのコレクションを取引するイベント「ピントレーディング」の開催も危機的状況だ。

長野市のピンバッジ愛好家玉井政道さん(68)は、98年長野五輪から20年以上収集を続けている。「2センチぐらいの鉄くずだけど、地元のマークが入っているのを見ると今でも当時を思い出す。魔法にかかちゃったのだと思う」と魅力を語った。東京五輪については「海外の有名なトレーダーも来ないでしょう。マニアにとって今回は地獄の五輪ですよ。よだれがダラーっと垂れる」と肩を落とした。

東京ピンクラブの寺島喜之代表幹事(51)が収集したピンバッジの総数は4万、5万個ほど。五輪関連は約5000個に上る。寺島さんは、08年北京五輪の時に会場近くの公園でピントレードを行ったといい「もともと異文化交流を図るためのもの。英語や中国語が使えなくても、身ぶり手ぶりで伝わるのが良い」と話した。東京五輪では、Zoom(ズーム)やSNSを利用した交流を検討しているといい「知り合いだけの交流になるのかな。会場の近くに集まるのも無駄かもしれない。正直答えが出ていない」としみじみ語った。

ピンバッジ収集は、好みのデザインを見つけることが魅力の1つだ。スポンサーの商品のおまけなど入手できる機会も増えた。一方で、限定のものなどはこれまでも一部のファンの間で高値で取引されてきた。寺島さんによると、食品大手「明治」のお菓子と、五輪のマスコットキャラクターが描かれた10個入り限定10セットが、今後数十万円で取引される可能性があるという。寺島さんは「ネットはよく偽物がある。だまされて買う人も出てくると思う」と注意を促した。「今はコロナで難しいですけど、自分の足で好みの物を見つけることも楽しんで欲しい」と呼び掛けた。【沢田直人】

◆東京五輪のピンバッジ 公式ライセンス商品のピンバッジは、合計で約600種類が制作され販売された。最安値は550円(税込み)。公式マスコットキャラクター「ミライトワ」「ソメイティ」がデザインされている。最高価は14万3000円(税込み)。18金でできていて、中央にはダイヤモンドが施されている。そのほか、各国・地域の組織委員会が制作するNOCピン。種類が豊富なスポンサーピンや、テレビ局などのメディアが制作するピンが、愛好家からの人気が高い。

 

○…ワールドワイドオリンピックパートナーのコカ・コーラ社は、ピンバッジの販売や交換のため専用スペース「コカ・コーラピントレーディングセンター」を88年冬季カルガリー大会から設置している。センター内は、コカ・コーラ社製のピンバッジのブースがあって、愛好家たちが集まり自分のコレクションを広げるのが恒例となっている。

「五輪の非公式競技」として大会の盛り上がりに一役買っていたが、日本コカ・コーラ社よると、今大会のセンターの設置は検討中だという。また、東京五輪の聖火リレーの開催にあたり、47種類の各都道府県にちなんだピンバッジを制作した。対象商品の購入でピンバッジが一つ付いてくる。聖火リレーのセレブレーション会場では観客などに配布をしていたが、無観客開催となった場所では、配布できずに在庫を抱えている。担当者よると、在庫のピンバッジの配布方法も検討中だという。