将棋の最年少2冠、藤井聡太王位(棋聖=19)が豊島将之竜王(叡王=31)の挑戦を受ける、第62期王位戦7番勝負第5局が24、25の両日、徳島市「渭水苑」で行われ、先手の藤井が77手で豊島を破り、シリーズの対戦成績を4勝1敗とし、初防衛を果たした。“天敵”を倒し、棋聖に続くダブル防衛で2冠を堅持。9月13日、東京・将棋会館で行われる豊島との叡王戦5番勝負第5局で最年少3冠を目指す。

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午後4時半すぎ、豊島が「負けました」と頭を下げると、藤井は深々と頭を下げた。持ち時間を1時間50分以上も残しての完勝。今シリーズは開幕局を落としたが、その後は4連勝。立ちはだかる同郷の“天敵”を倒し、2冠を堅持した。

「桂を跳ねてこちらの王が寄らなければ飛車をとるのが大きいのかなと思った。駒得になって指せるかなと思った」。ほぼ互角で迎えた2日目午前、勝機を見いだすと、一気に攻めた。50手目、豊島が角交換を催促した「後手7五銀」と指すと、藤井は44分、長考し51手目に「先手9七桂」と桂馬を跳ねた。誤算があったのか、豊島の手が1時間以上、止まる。

この一手で藤井は銀1枚を得する「銀得」となり、優勢を築き、手堅く、着実にリードを広げ、押し切った。スケールの大きな指し回しは、異次元の強さだ。棋聖戦では渡辺明名人(王将、棋王)、王位戦では豊島と最強挑戦者2人を撃破した。「トップ2人との番勝負で対戦できる機会を得て、自分の足りないところも見つかった」。

18歳の夏に史上最年少で初タイトルを獲得してから1年。予想を上回るスピードで強くなっている。師匠の杉本昌隆八段は「ここまで真っすぐに成長した棋士を見たことがない」と驚く。成長の原動力はたゆまぬ研究だ。通常のAI(人工知能)の将棋ソフトともう1つ、新しいディープラーニング(深層学習)系のソフトを使うようになった。実戦での“落とし穴”を回避できるのに役立つ。タイトル戦での“勝負服”の和服も自分で着付けできるようになった。

2冠を堅持し、豊島との9月13日の東京・将棋会館で行われる叡王戦5番勝負第5局で最年少3冠を目指す。「第4局は完敗だったので、悔いのない将棋を指したい」。「試練の夏」を乗り越え、アップデートされた19歳が年度内6冠も視野に入れる。【松浦隆司】