今回の衆院選では野党共闘が進み、事実上の与野党一騎打ちの構図が289ある小選挙区の半数に上る。宮城5区は、自民党が元タレント森下千里氏(40)を擁立。名古屋市出身の落下傘候補だが、出馬表明後から「辻立ちクイーン」を自称して1600回超の街頭演説を行い浸透を図る。立憲民主党は国対委員長として存在感を増す安住淳氏(59)。地元石巻市出身で、96年の初当選から8連続当選中と強固な地盤を誇るが、党幹部として全国応援に引っ張りだこだ。鬼の居ぬ間に-新人候補の猛追となるのか。

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森下氏は演説中も、スニーカーを履いた足で走る。信号待ちの車、つえをつく老夫婦、遠くから手を振る子どもたちのもとへ。「名前のように千里を駆ける思いで、しっかりと皆様方の声を聞くために、はせ参じたい」。元グラビアアイドルとしての知名度はあるが、宮城との縁は東日本大震災後にカレーの炊きだしに訪れるなどの支援活動くらい。だからこそ、数多くの人に触れ、生の声を聞くことを重要視してきた。

19年限りで芸能事務所との契約を解除。今年3月に衆院選出馬を発表し、4月には石巻に移住した。愛知県から5月に駆けつけ同居している母の弁当を持って、ツイッターで「辻立ちクイーン」を自称して各所で街頭活動を繰り返した。母からも、一般市民として感じた地域の課題など、地域情報収集チャンネルとして“活用”し、精力的な活動を続ける。

農家で田植え体験をしたり、旅館関係者と意見交換の場を設けたり、名産のカキ工場を訪問するなど、交流を通じて浸透を図ってきた。「震災から10年。つらい体験をしている方は本当に優しい方が多い。見ず知らずの私にも「『頑張ってね』と声をかけてくださいました。これまでにいただいた勇気、元気、やる気を、これからもっとお返ししたい」。

先月の自民党総裁選時には高市早苗氏と対談。今月16日には石巻市で岸田文雄首相が開催した女性対話集会で司会に抜てきされるなど、党幹部の後押しも受ける。「戦いは12日間ではありません。皆様方と心をともにする、この先、一生の戦い」。イメージカラーはピンク。グラビア時代にはNO・1女豹(めひょう)ポーズの評価を得たこともあるだけに“政界のピンクパンサー”となるべく、縦横無尽に走りまわる。【鎌田直秀】