今年のエンタメ界を振り返ると、映像系ではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、SVODが元気な年でした。豊富な資金力で集めたコンテンツが、コロナ禍での生活の中でユーザーを獲得。その一方、地上波放送はHUTやPUTが下がり続け、若者層の獲得に必死です。今後、映像作品はどのように消費されるのでしょうか。ドラマ、映画、SVODとすべてを知っている「深夜食堂」を通して、考えてみました。
一般財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAJ)のリポートによると、20年の国内の動画配信市場規模は3710億円(前年比134%)。今後も伸び続け、25年には5020億円に達すると推計している。この数字はSVODとライブ配信のみで、配信サイトの広告収入などは含まない。無料サイトのTverやABEMAなども含めればさらに市場は大きくなる。
20年からのコロナ禍による外出自粛に伴い、在宅時間は増加。リアルなライブ、舞台、イベントなどは中止となり、オンラインライブ配信プラットフォームが増加したことも市場を底上げさせた。最近の話題作の「イカゲーム」はネトフリ作品だし、先日のサッカーW杯最終予選のアウェー戦はDAZNの独占配信になるなど、SVODが席巻しているように映る。ビデオリサーチのデータによると、テレビのネット接続の割合は関東地区で52・8%。これはケーブルテレビも含む数字だが、もはやテレビが放送局のものだけではないことがわかる。
「深夜食堂」は安倍夜郎氏の人気コミックで、09年10月期にTBS系でドラマ化された。大手芸能事務所のアミューズが権利を獲得。マスター役に小林薫(70)を起用したことが、作家側のイメージに合致したと、遠藤日登思プロデューサーは振り返る。深夜枠のため、いわゆる映画と同じような製作委員会方式で作られた。
-深夜ドラマでした
遠藤氏 「深夜食堂」だし、その当時は深夜ドラマが元気なころで、MBSに相談しました。
-低予算ですね
遠藤氏 小林さんも低予算は理解していただいたのですが、演出家にはこだわって欲しいと言われ、松岡錠司監督の名前が出て。たまたま、他の仕事に支障が出たこともあり引き受けてもらいました。
-深夜ながら視聴率は3%近い回も
遠藤氏 それでも第1シーズンは赤字。その当時はDVDが大きな収入源。放送権料と3対7の比率ぐらい。作品はそれなりの評価をいただき、さらに、中国や韓国でも人気が出ました。
-それで第2シーズン
遠藤氏 ただ同じようにやると赤字なので、サントリーから協賛金をいただけたのでゴーサインを出しました。
-第3シーズンと映画化がセットなんですね
遠藤氏 スタッフから映画にしたいとの声が上がりまして。ただ、この作品はセットにお金がかかりまして。映画と共用することで乗り切りました。
-第4シーズンからネットフリックスです
遠藤氏 DVDの売り上げが、特にレンタルは右肩下がり。以前から、中国や韓国ではパッケージではなく配信でした。だから、僕の方からネトフリに売り込みに出向きました。アジア圏にも人気のコンテンツだとPRして。すぐに購入してもらえました。
-MBSもOKしたのですか
遠藤氏 いえいえ、もめました。その当時は黒船が来たといった感じで、放送局は警戒していましたから。ネトフリの資金があれば製作委員会方式でお金を集める必要もありません。ただ、これまでの関係や、原作者サイドがこれまでのファンも大切にして欲しいというので、配信から3年後には地上波でも放送できる契約にしました。
-第5シーズンもできたのは数字がよかった
遠藤氏 いつどこで誰が見たという詳細なデータはあるはずですが、製作側には開示されません。「割といいです」みたいな感じで。悪ければ次はないのでしょうが。ただ、ネトフリは中国でのサービスがないので、ワールドワイドの契約から中国を除外してもらい、中国のビリビリという配信サービスと契約を結びました。アジア圏で人気の作品なので中国で見られないのはもったいないですから。
-ネトフリは製作面での自由があると聞きます
遠藤氏 テレビでも後に放送するのでそんなに攻める作品でもありません。ただ、地上波はコンプラが厳しい。マスターも最初のころは厨房(ちゅうぼう)でたばこを吸っていたんですがね。「全裸監督」の武監督に聞いたら、こんなこともできるのかと驚いたと言ってました。
-今後はどうすみ分けされるのでしょう
遠藤氏 スクリーンで見る映画はなくならないでしょうし、映画も最終的には配信に流します。当初、ネトフリは配信権だけを持っていたのですが、ディズニーが自身の配信事業をやるために作品をすべて引き揚げたことをきっかけに、「全裸監督」のようなすべての権利をもつオウンドの作品に力を入れています。
-ネットフリックスになって変わったことは
遠藤氏 予算ですね。最初は、ギャラが安くてすみませんと謝ってばかりでしたが、それも少なくなりました。製作現場は仕事がしんどく、なり手も減っている。特に助監督不足は深刻です。だから、製作委員会での深夜ドラマはもうやろうとは思いません。低予算だと、働くスタッフも仕事じゃない。自主映画ではないので。予算があっていい環境で作れるのは幸せです。
-ネトフリの拡大で作品の傾向も変わっていきますか
遠藤氏 配信会社へのコンテンツ販売を仲介するマイシアターDDという会社があります。最近は製作にも乗り出して、配信で見られやすいものを積極的に扱っています。ビデオが出始めのころ、借りられやすい作品としてVシネが作られ、やくざものが人気でした。
-配信で人気なのは
遠藤氏 BLジャンルが人気です。自宅で1人で見る女性がコアなターゲットだそうです。穏やかなものから激しいものまでが人気で、特に中国では、BL作品は作られていないこともあって、人気は高いです。今、中国で有名な日本人俳優は赤楚衛二くんらしいですから。
-ネトフリでは韓国作品が人気です
遠藤氏 前から言われていたことですが、韓国は外に向けてチャレンジしてきたし、オリジナル作品が強み。助監督は常にオリジナルの脚本を書き、それが認められて監督になる。日本だと、原作のないものを映画化で通すのは難しいですから。
-日本市場も縮小は分かっています
遠藤氏 僕はアジアを意識しないといけないと思っているけど、映画会社はまだ国内マーケットにこだわっている。年に1本は世界に向けてとは思いますけど。大リーグで大谷選手が活躍したことで少年野球が活性化するように、世界で活躍する監督が出てくれば、また変わっていくと思うんですけどね。
<SVODの現状>
世界市場をみると、ネットフリックスのユーザー数は2億超、アマゾン、ディズニープラスがそれぞれ1億以上で3強と呼ばれ、市場をけん引する。アジア圏だとネトフリとディズニーの2強。日本では、アマゾン、ネトフリが抜け出し、これにディズニーが猛追するほか、日本テレビ系のHulu、USENが運営のU-NEXTが続く。テレビ各局系では、フジテレビのFOD、テレビ朝日はABEMAとTELASA、TBSとテレ東はParaviなど乱立状態だ。
インプレスのデータによると、21年の有料動画配信サービス利用者を対象にした利用率はアマゾン69・2%、ネトフリ21・4%、Hulu10・3%、DAZN9・3%、U-NEXT6・3%、dtv5・8%、dアニメストア5・3%の順だった。
無料サービスだと、YouTubeが95・5%で突出しており、以下Twitter47・2%、LINE38・0%、Instagram30・2%、TVer30・1%と続く。特にTVerは昨年より7・3ポイントも増加した。
◆SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド) 毎月定額で、映画やテレビドラマ、アニメ、スポーツなどを見放題で視聴できる動画配信サービス。アプリを通してスマホやタブレット、パソコンなどでコンテンツをストリーミング再生して楽しむことができる。最近は、テレビのリモコンに各種VODのスイッチが組み込まれており、テレビがネットに接続されていれば、放送と同じように大画面で視聴できる。
◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビの特集ページ「TV LIFE」や、現在も続く「ドラマグランプリ」を立ち上げた。自宅のテレビはケーブルで、家族が会員のためアマゾンとネトフリが見られる。ただ、連ドラも録画で各クール数本は見るため、時間もなく、ネトフリ作品まではチェックできていない。