大雨の続いた静岡・熱海市の伊豆山地区で地滑りが発生した。7月3日午前10時すぎだった。逢初川(あいぞめがわ)上流から流出した土砂が河岸の住宅をのみ込んで死者26人、行方不明者1人を出す大惨事となった。

その土石流で店舗が壊れた老舗そば店「木むら」が12月22日に約5カ月半ぶりに営業を再開し、年越しそばの予約が殺到している。

   ◇   ◇   ◇

創業から87年の老舗そば店が熱海市伊豆山地区で発生した土砂流につぶされた。鎌倉幕府を興す前に源頼朝と北条政子が出会った場所である言い伝えから命名された逢初橋も第1波で大破した。それから30分後の第3波までに「木むら」の店舗は土砂と押し流されたがれきに埋まってしまった。

店主の小林和海(ともみ)さん(48)は「父から受け継いだ店だけど営業再開は無理だと感じた」と無力感でいっぱいになったと振り返った。同じ伊豆山地区にあった自宅は無事だったが、避難勧告もあって店に戻れたのは土砂流発生から2日後の7月5日だった。

復興支援で事故現場に入っていた工事関係者からは「店に入った土砂を取り除くだけで1カ月はかかりそうだ」とも言われた。しかし、事故発生から1週間後には土砂とがれきを店外にはき出すことができた。「全国から集まった災害ボランティアのみなさんがバケツリレーで掘り出してくれた。もう感謝しかありません」と小林さんは声を震わせた。

土砂をはき出す作業中に父の代からつぎ足しで大事にしていたそばのしょうゆダレ「カエシ」の入った壺(つぼ)も見つかった。店舗地下の倉庫にも土砂が入り込んでいた。備品のほとんどが壊れてしまったが、壺はふたの部分には泥がかぶらず「ヒビ1つ入らず無傷だった」。小林さんは驚き、店舗再開への希望の光を見いだしたという。

店舗内外が急ピッチで改装され、今月22日から営業を再開できた。国道135号に面した店舗前は、お祝いの生花と日本酒やビールのケースで壁のようになった。「年越しそばのオーダーが殺到して、30日は配達に追われそう。例年の3倍ぐらいの件数かな。おかげさまで27日は店の営業を休んで1日まるまる仕込みにあてました」と小林さんは声を弾ませた。【寺沢卓】

◆熱海市伊豆山地区の大規模土石流 7月3日午前10時半ごろ、伊豆山地区の逢初川(あいぞめがわ)で大規模な土石流が発生。南東方向に向かって海まで約1キロ流出。全半壊した家屋は128棟にのぼり、人的被害は死者26人、行方不明者1人。市内ホテル2カ所に住民153人が避難した。県の調査では起点の土地の盛り土の大部分が崩れ、土砂が下るにつれて勢いを増して土石流につながったと報告。国土地理院の測量で盛り土量は推計約5万6000立方メートルとした。

起点の土地の新旧所有者が安全管理を怠ったとして遺族が出した告訴状を県警が受理。業務上過失致死などの容疑で捜査。県警は家宅捜索など強制捜査も行った。県警は12月6日、起点の土地の新旧所有者2人について、殺人容疑での遺族からの告訴状を受理した。告訴状は「未必の故意」があったとしている。

○…「木むら」隣のクリーニング店は11月8日から営業再開できたが、店主の岡本政夫さん(70)は「土砂やがれきを撤去しても店前には軽自動車程度の大きさの岩が2つ転がったままだった。土石流の威力と怖さをあらためて知らされた」と話した。店がある集落の中心部の国道135号沿線はほぼ復旧してきたが、逢初川の上流部はまだ電気、水道のつながっていない家屋や、流されてしまった建物の再建の見通しが立っていない。

静岡県熱海土木事務所担当者は「上流地区での生活が復元するまでの目標を2年後としているが、あくまで目標です」と話した。土石流の発生現場となった盛り土のあった場所に砂防ダムを建設し、最上流での安全が確保されてから順次整備に入るという。担当者は「ようやく土砂とがれきを撤去できた状態」と説明した。