ロシアの侵攻を受けるウクライナ南東部の激戦地マリウポリで9日、爆撃を受けた産科小児科病院から退避する写真で世界各国のメディアに報じられた妊婦のマリアンナ・ポドグルスカヤさんが、美容ブロガーでインフルエンサーとして有名だったことから、ロシア国内で「フェイクニュース」のターゲットにされている。

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爆撃で顔などを負傷しながらも、パジャマ姿で大きな荷物を抱えて階段を下りて1人で退避する姿が報じられたポドグルスカヤさんに対し、ネットでは「彼女は妊婦を演じるモデル」だとの投稿が相次ぎ、その証拠としてポドグルスカヤさんが過去に自身のSNSに投稿した写真が拡散されていると複数の米メディアが報じた。

米ピープル誌によると、ポドグルスカヤさんはインスタグラムに7万5000人を超えるフォロワーを持っており、ロシアによる侵攻が始まる前は美容プロダクトを紹介したり、大きなおなかで子供服を手にする幸せそうな写真も投稿していた。そのため、退避する妊婦がポドグルスカヤさんであることが特定されると、SNSにはロシア語で「恥を知れ」など悪質なコメントが複数書き込まれ、その中には妊婦姿の写真は「偽の写真撮影」などと根拠のない主張をする書き込みも多くあるという。

英ロンドンにあるロシア大使館は、攻撃された小児病院は長い間使われておらず、ウクライナ軍やネオナチなど過激派のアゾフ大隊が利用していたと主張し、「妊婦がこの小児病院にいるはずがない」とポドグルスカヤさんの写真に「FAKE(フェイク)」のスタンプを押してSNSに投稿。

その後も、ポドグルスカヤさんが被害者であることが分かると、フェイクニュースの証拠として化粧品を紹介するインスタグラムの写真と戦場で撮影された写真を掲載し、「著名なプロパガンダ写真家に撮影させたものだ」と攻撃した。ツイッター社は同日中にポリシー違反だとしてこれらの投稿を削除している。

ロシア国内の報道は政府のプロパガンダ情報であふれており、ウクライナ侵攻から2週間が経過した現在も「戦争はでっちあげで捏造(ねつぞう)されたもの」との誤情報が拡散され続け、西側諸国のメディアが伝えるニュースはクライシス・アクターと呼ばれる非常時を演出するために雇われた俳優を使って撮影セットで撮影されたものだと信じ込んでいる国民が多い、とCNNなどが伝えている。

退避した翌日に元気な女の子を出産したポドグルスカヤさんは、退避時と同じパジャマ姿で赤ちゃんと共にベッドに横たわる写真やベッドの横で赤ちゃんを抱く夫の様子などがメディアを通じて公開されており、ロシア側の主張が誤りとみられることを伝える象徴となっている。

小児病院の爆撃では、少なくとも子供を含む3人が死亡し、17人が負傷したと伝えられている。(ロサンゼルス=千歳香奈子)