世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐりさまざまな問題が浮上する中、カルト団体や悪質商法などの勧誘について、あらためて不安が高まっています。特に大学生などが狙われやすいとされてきましたが、コロナ禍で手口などに変化はあるのか、なぜ引っかかるのか、マインドコントロールされるのか、どうすれば防げるのか-。専門家に聞いてみました。

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マインドコントロールに詳しく、消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」メンバーで、日本脱カルト協会代表理事も務める立正大の西田公昭教授(社会心理学)

-コロナ禍で、カルト団体や悪質商法の勧誘もSNSなどを使った手口に変化していると聞きます

西田さん 若い人はネットには特別な警戒感もありません。会ってみたらいい人で、次また会ってみようという感じで進んでいきます。年齢も下がっていき、高校生あたりが危ない。

-なぜだまされるのでしょうか。どうすれば防げますか

西田さん 勧誘されるのはタイミングだと思います。孤独感は高い時も低い時もある。忙しい時、暇な時、だれかと話がしたい時など、いろんなタイミングがあります。また、多くは知識がなく、まさか自分が対している人がカルトとは思わない。本人からみれば、いい人と友だちになっただけです。自分は絶対大丈夫という人が、結構、被害にあっているのが現実です。

マインドコントロールは人ごとのように思うかもしれませんが、私だって1人で相手の仲間の中に飛び込んだら自信ありません。人は、周りの人たちを信じることによって自分を守っています。周りがみんな、先祖が泣いているなど反証が可能でない話をした時に、人はどこまで振り払えるか。ナチスドイツも、皆が崇拝する中で、心の中ではおかしいと思った場合でも、皆の前では言えなかった。それと同じ心理。カルト宗教もマルチ商法も同じテクニックなんです。彼らの集団に入ると、信じるのが当たり前で、信じないという選択を取れないのが怖いのです。周りに自分と同じ考えの仲間がいて、そんなことないよねって言い合えれば大丈夫なことが多いんです。オンラインのやりとりは、周りからの忠告などが聞けないから怖いんです。

知識がないのが一番弱いです。だます気が全くないようにみえて実はカルトというのが、身近に存在していることを知ることが一番の防衛です。特定の団体だけを警戒するのも甘い。旧統一教会もさまざまな団体を持っている。看板で判断してはいけません。予防教育がとても大事。正体を隠す勧誘はものすごく怖い。フランスでは名乗らなかったり、違う名前で勧誘すること自体が違法だと、信教の自由でなく、カルトでしょと言っているわけです。

-マインドコントロールの段階までいった人はなかなか戻れないと

西田さん だから宗教二世問題が起きているんです。いくら親を説得しても、いやいやとなる。例えば1000万円献金する。いいことが起きたら、献金したおかげだとなる。いいことが起きなかった人は、足りないとか、この程度で済んだなどと言われる。あるいは神様は試練を与えていると説明されると、もう1000万円出そうとなる。

-だまされた人や信者の、家族や友人はどう接すればいいでしょうか

西田さん 否定してはいけない。寄り添って、本人が何かおかしいと気付くタイミングを待つのです。受け皿がないと、誰も戻ってきません。

-社会は、二世や信者の家族らと距離を置く傾向もあります

西田さん そこが今回の事件で深掘りされたと思います。彼らは余計に言えなくなったと言っています。みんな過激な人間だと思われているとか、社会の偏見にさらされるのが嫌で、カミングアウトせずにいるのが多いと思います。彼らは何も悪くない。深い知識を持ち理解すれば、偏見や差別で彼らに接することはないと思います。オウム真理教の元信者と話していて、よくそんな話になります。親友ができたので言ってみたら、その日から距離を取られたとか、会社で“お前、暴力的なことに関与していたのか”と言われて、人には言わないようにしていますというんです。同じようなことが旧統一教会でも起きていると思います。

普通に友だちや隣人として接するには、何も問題ないはずです。彼らは普通にしてほしいんですよ。そういう環境が整備されないとカミングアウトはできません。我々の前に出てくる二世は、今まで大事にしてきたものの全てを捨ててまでも出たいという葛藤の中で出てくる人たちなんだから、我々の社会が温かくなければ本当につらいと思います。経済力とか仕事とか、うまくいってない場合もあるわけです。それを分かって受け止めてあげなければいけない。虐待を受けた子どもたちをどう支援するかということと、本当に似ていると思います。【聞き手・久保勇人】