仲邑菫三段が、囲碁界史上最年少となる13歳11カ月での初タイトルを獲得した。

6日、東京・市ケ谷「日本棋院東京本院」で打たれた第26期ドコモ杯女流棋聖戦挑戦手合3番勝負第3局で、上野愛咲美女流棋聖(21)に250手までで白番(後手)中押し勝ち。シリーズ2勝1敗として、初の中学生タイトル保持者となった。優勝賞金は500万円。なお、これまでの最年少記録は藤沢里菜現女流本因坊・女流名人(24)が2014年(平26)の第1期会津中央病院杯(現女流立葵杯)を制した、15歳9カ月だった。

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囲碁界の歴史が変わった。「奇跡です。実感がないです」。仲邑は、史上最年少タイトル獲得会見でこう話した。

1勝1敗で迎えた黒番(先手)上野との最終第3局は、激戦になった。AIの評価値は1手ごとに揺れ動く。相撲で言えば、立ち合いからの突っ張り合い、野球で言えば打撃戦。どちらが先につぶれてもおかしくないノーガードの打ち合いから、仲邑が中盤すぎにペースをつかむ。優勢を築くと、昨年のプロ野球日本シリーズを制したオリックスの中継ぎ投手陣のように、反撃を封じていく。着実な打ち回しでリードを広げ、勝利にこぎつけた。

2019年(平31)4月、小学生を対象とした日本棋院の英才特別採用推薦棋士として、当時の史上最年少となる10歳0カ月でデビューした。国民栄誉賞棋士の井山裕太本因坊(33)、名人獲得経験者の高尾紳路九段(46)や張栩九段(43)から、「プロとして十分戦えます。3年でタイトルを獲得できる実力の持ち主」とのお墨付きを得た。これが採用の決め手だった。

当時の記者会見で「中学生までにタイトルを取りたい」と話した。「その時は適当なことを言っちゃったなと思ったんですけど。タイトル獲得は、思ったより早かったと思います」。3年10カ月で有言実行した。

デビュー当初は関西総本部に所属していた。一昨年1月から東京本院に移籍した。「より強い棋士やライバルがたくさんいるから」が理由だった。ここで力をつけ、19年は17勝、20年は21勝だったのが、21年は43勝、昨年は48勝と飛躍的に勝利数が伸びた。

昨年4月、女流名人戦に13歳1カ月の最年少挑戦者として登場したが、藤沢里菜女流名人(24)に連敗。初戦の敗退後、気持ちを切り替えられなかった。7月には一発勝負の扇興杯で決勝に進出し、牛栄子現扇興杯(23)を相手に優位に進めながら終盤、逆転負けを喫した。「扇興杯で負けてもうチャンスは来ないと思っていました。頑張れば結果が出ると、今回思いました」と喜びをかみしめた。

序盤から中盤でリードしながら、後半で失速する負けパターンを課題としていた。連日「詰め碁」を解いて、終盤力を鍛えた。「日々の努力が結果につながってよかったです。ほかの棋戦でも活躍できる棋士になりたいです」。

好きな食べ物は焼き肉。区切りの勝利などでは必ず希望している。「(お祝いの夕食は)焼き肉にしたいです」。飛びきりの笑みがはじけた。【赤塚辰浩】

◆仲邑菫(なかむら・すみれ)2009年(平21)3月2日生まれ。大阪府出身。三段。師匠は父の仲邑信也九段。母は元囲碁インストラクター。母の妹は、関西棋院の辰巳茜三段。3歳で囲碁を覚え、17年からは韓国ソウル市に出向いて武者修行。18年アマ女流棋戦に9歳で優勝。日本棋院の新採用制度「英才特別採用推薦棋士」候補として同年12月に試験碁を受け、19年1月にプロ入りが発表された。同年4月に関西総本部所属としてデビュー。21年1月に東京本院に移籍。23年2月、囲碁界史上最年少の13歳11カ月で初タイトルとなる女流棋聖を獲得。

【デビューからの足跡】

◆採用 原則、小学生を対象とした日本棋院の「英才特別採用推薦棋士」として、19年1月5日、同年4月1日付で初段としてのプロデビューが発表される

◆1日署長 採用発表から1週間後の1月12日、大阪市の此花警察署で

◆デビュー 19年4月22日、10歳1カ月の当時最年少でデビュー。竜星戦予選Bで大森らん初段に黒星

◆始球式 同年5月1日、東京ドームの巨人対中日戦で。令和改元記念セレモニーとして

◆初勝利 同年7月8日、10歳4カ月で女流棋聖戦予選Bで田中智恵子四段を下す。もちろん、最年少

◆東京へ 21年1月1日付で関西総本部から東京本院に移籍。3月16日に初段から通算30勝の規定で二段に昇段。史上最年少12歳0カ月で

◆会津遠征 同年6月、女流立葵杯で準決勝に進出し、初の遠征として福島県会津若松市へ。ほかの3人の女流棋士と着物で撮影

◆初のタイトル挑戦 昨年4月、女流名人戦に13歳1カ月の史上最年少で登場

◆三段昇段 22年10月14日、二段昇段後40勝(女流棋戦を除く)により三段に昇段。13歳7カ月での昇段は趙治勲の13歳4カ月に次ぐ史上2番目、女流棋士では最年少

◆賞金は? 女流棋聖戦の優勝賞金は500万円。使い道は、「milet(ミレイ)さんのライブに行きたい。『Final Call』がお気に入りです。あとは映画やカラオケに行きたいです」。

 

◆女流棋聖戦 1997年(平9)創設の女流棋戦。優勝賞金は500万円。予選勝ち上がり組とタイトル保持者、前回挑戦手合の敗者による計16人のトーナメントで、挑戦者を決める。タイトル戦は3番勝負。序列は女流本因坊、女流名人、女流立葵杯に次いで4番目(5番目は扇興杯)。対局は1手30秒。ただし、1分単位で合計10回の考慮時間があるNHK杯と同じ形式の早碁戦。仲邑がタイトルを獲得するまでは、18年の第21期で上野が記録した16歳3カ月が、このタイトルの最年少記録だった。

◆英才特別採用推薦棋士制度 日本棋院が2019年(平31)から開始。原則、全国大会などで活躍した小学生が対象。早い時期からプロとして育成し、国内のタイトル戦だけではなく、国際棋戦でも活躍できるようにとの期待が込められている。内外での実績に加え、将来性、試験対局でふさわしい資質と棋力があると認定された者で、日本棋院の棋士2人以上の推薦が必要。現役の7大タイトル保持者、ナショナルチームの監督、コーチ3分の2以上の賛成により、審査会や常務理事会を経て決定する。