ロシアのウクライナ侵攻から24日で丸1年となった。
ゼレンスキー大統領(45)のもと、一致団結して戦うウクライナの強い精神は、国歌「ウクライナは滅びず」に如実に示されている。連日の報道で、日本でも同国の知識は深まっているが、あらためてウクライナという国を調べてみた。映画、文学、ダンス、スポーツ、食など、知れば一層親しみを感じる国である。
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ウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」は、ロシア帝国の支配下にあった1862年に、ウクライナ人の詩人が同名の詩として発表した。同胞に支持されたが、ロシア帝国の検閲で詩人は追放された。後に曲がつき、愛国の歌としてひそかに歌われた。一読で、ウクライナがいかに自由を渇望していたかが分かる。
アメリカ国歌「星条旗」は、1812年に始まった米英戦争で劣勢に堪えた史実にもとづいて作られた。「星条旗はまだたなびいているか?自由の地、勇者の故郷の上に」と歌う。フランス国歌「ラマルセイエーズ」は、1792年に始まったフランス革命戦争で、兵士の士気を鼓舞するために作られた。「武器を取るのだ!敵の不浄な血でわれらの田畑を染め上げろ!」と歌う。ウクライナ国歌も、長い戦いの歴史の中から誕生した。
ウクライナやロシアのルーツは、9世紀に東ヨーロッパに誕生したキエフ大公国と言われる。11世紀にモンゴル帝国に侵略され、複数の国に分裂した。ロシアは自力で大国となっていったが、中世ウクライナはロシア、ポーランド、リトアニア、オスマン帝国など多くの国や民族が交わる場所にあり、数々の戦争に巻き込まれ支配された。
そんな中で登場したのが武装集団コサックだった。コサックとは「自由の民」の意味で、農業や漁業を営みながら、いざ戦争となると自由と独立を目指して勇猛果敢に戦った。その精神は、今もウクライナの人々に受け継がれている。
18世紀からロシア帝国に支配されたが、ロシア革命が起きた1917年に初めての独立国家「ウクライナ人民共和国」を樹立した。この時「ウクライナは滅びず」が国歌に採用された。しかし、再びソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)に組み込まれ、国歌は葬られた。復活するのはソ連が崩壊し、独立を果たした91年の翌年だった。
国歌では、他国の支配を認めず、全身全霊で戦い、その忍耐と努力で、ウクライナの名声と栄光は世界に知れ渡る、と歌う。ゼレンスキー大統領は昨年6月、「私たちは敗れることはない。なぜなら我々はコサックの一族だからだ」と国民にメッセージを送った。まさに国歌の実践である。
ちなみにロシアの国歌(通称「祖国は我らのために」)は、ソ連時代の「ソビエト連邦国歌」のメロディーである。ソ連崩壊後、暫定国歌が作られたが、国民に浸透しなかった。プーチンが大統領就任後の01年に、新たな歌詞でソ連時代のメロディーを復活させた。歌詞には、何世紀にもわたる同胞の結束、南方の海から北極圏にまで及ぶ広大な故郷という内容が登場する。ロシア帝国以来の大国主義が見える。それぞれの国歌が両国の“今”を如実に示している。
<ウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」>
1
ウクライナはいまだ滅びず その栄光も自由も
同胞よ 運命はわれらに再びほほ笑むだろう
われらの敵は 太陽の下の露のごとく消え
われらは われらの地で 国を治めよう
※われらは自由のために 魂と身体をささげよう
そして示そう われらがコサックの子孫であることを
2
同胞よ サン川からドン川まで 血の戦いに立とう
いかなる者も わが故郷を支配させはしない
黒海はほほえみ 父なるドニプロ川は歓喜するだろう
なぜならウクライナに 幸運が再来するのだから
※繰り返し
3
われらの忍耐と 誠実なる努力は報われ
自由の歌は ウクライナの地に響き渡る
その歌はカルパチア山脈に反響し 草原にも鳴り響く
ウクライナの名声と栄光はすべての国に知れ渡るのだ
※繰り返し2回
<知ってる?ウクライナ>
ウクライナという国名を見聞きしない日はない。とはいえ、どんな国か、まだあいまいという方に、親近感を持てる事柄であらためて紹介しよう。
◆ウクライナ スラブ語で辺境・国境地帯の意。
◆国旗 上半分が青色、下半分が黄色の二色旗。青空と、黄色は大地を染める小麦の稲穂を表す。同国は「ヨーロッパの穀倉」と呼ばれている。国花のヒマワリの黄色ではない。
◆「静かなドン」 ロシアのノーベル賞作家ミハイル・ショーロホフの大河小説。20世紀初頭、ロシアとウクライナを流れるドン川流域のコサックが、第1次世界大戦、ロシア革命と時代の波に翻弄(ほんろう)される姿を描いた。
◆「花はどこへ行った」 世界で最も有名な反戦歌。前述の「静かなドン」に書かれたコサック民謡をヒントに、米歌手ピート・シーガーが作った。繰り返される戦争の悲劇を歌う。歌のヒントがウクライナだったことが悲しい。
◆「ひまわり」(ヴィットリオ・デ・シーカ監督) 第2次世界大戦で引き裂かれた夫(マルチェロ・マストロヤンニ)と妻(ソフィア・ローレン)の悲劇を描いた傑作映画。地平線まで続く広大なヒマワリ畑が、無数の兵士の墓標であるというシーンは、ヒマワリが国花でもあるウクライナで撮影された。
◆「コサックダンス」 早いテンポの曲に合わせ、男性がしゃがみながら足を交互に組み替えて踊る。ロシアのダンスと思われがちだが、「ホパーク」と呼ばれるウクライナの民族舞踊が発祥。武装集団コサックの身体鍛錬術として発展した一面もあるという。
◆「ボルシチ」 ビーツ(野菜)の赤が特徴的なスープ。ロシア料理と思われているが、ウクライナ語で赤いスープを意味する「ブリシチ」に由来する。「トムヤムクン」(タイ)「フカヒレスープ」(中国)「ブイヤベース」(フランス)とともに世界を代表するスープと言われる。
◆スポーツ サッカーが人気。W杯出場は06年のドイツ大会だけだが、ベスト8に進出した。東京オリンピック(21年)でのメダル獲得数は19個(金1=レスリング、銀6、銅12)。競技別の通算メダル獲得数ではレスリング、陸上、ボクシング、体操、カヌーが多い。ロシアの軍事侵攻を受ける中で参加した北京パラリンピック(22年)では、メダル獲得数が開催国・中国(61個)に次ぐ国別2位の29個(金11、銀10、銅8)と活躍した。
◆姉妹都市 港湾都市オデーサ市は横浜市、歴史ある首都キーウ市は京都市と提携。ドニプロ市は大阪市と友好協力都市である。